オランダでの3年間の教育武者修行を終えた平山直樹(ひらやまなおき)さんにお話を伺いました。

オランダ社会のこと、教育のこと、平山さんのこれからのことを6回に分けてお届けします。

話し手
平山 直樹 / Naoki Hirayama

イエナプランの実践者(イエナプラン教育専門資格 蘭:2019)
日本の中学校で10年間社会科教員を務めた後、教育武者修行のため2016年オランダへ
新婚旅行で6ヶ月のアパラチアントレイルハイクをする根っからの冒険好き
2020年4月より、大阪市にある教育改革中の私立中高に勤務予定

 

聞き手
 佐藤 草 / Sou Satoh

認知科学やインテグラル理論を基にした意識の変容支援の実務家 オランダハーグ在住

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オランダで学んだこと② オランダ人が「育むもの」

「大事なことを大事にできる」ために大切なことは?

ーオランダで3年間暮らして気づいたことは他にどんなことがありましたか?
オランダに3年間滞在して感じたのは、オランダ人は「大事なことを大事にできる人たち」だということです。もう少し細かく表現すると、「大事なことや本質的な部分に時間や労力をかけ、大事でないことやディティールの部分は上手に捨てる」といえます。これって簡単なことのようで、かなり難しいことですよね。細部のクオリティまで気になってしまう日本人にとってはかなり耳が痛い笑。クオリティにこだわるというのは日本人のすばらしい特性だと思うんですけど、生産性という話になるとオランダ人の労働生産性は日本人の約1.5倍になってしまう(時間あたりの労働生産性)。そして、これは何も経済だけの話ではなくて、教育の中でも、生活の中でも、オランダ人たちは大事なことをピンポイントで押さえながら限られた時間や労力の中で成果を出していくんです。この姿は、日本でガムシャラに働いてきた僕にとってはかなりの衝撃でしたね。

教育はオランダ人が大事にしているものの一つ 子ども向けのイベントには趣向が凝らされている

ー「大事なことを大事にしたい」という気持ちを持つだけでなく、実際に「できる」というのは何がそうさせているのでしょうか。
「大事なことを大事にできる」ようになる土台は、やっぱりオランダ人の子どもに対する教育の姿勢にあると思ってます。どういう教育的な姿勢かというと、「子どもの意見を尊重して、子ども自身に選ばせる。」ここはオランダの教育のかなり重要な部分だと思っているので、日本の皆さんにも是非伝えたいところなんですけど。「選択できる機会」はオランダの教育を見ると本当にいろんなところにあるんですよ。これは学校の中でいえば「学びのオーナーシップ」を子どもに渡していますよ、ということなんです。中学教員として、どうやって分かりやすい授業をしようかとばかりを考えていた僕にとっては、このスタート地点のちがいというか、パラダイムの違いは大きかった。でも、ここから先もすごく大事で、じゃあ、大人や先生は、いつでも子どもの意見を尊重して子どもの自由にさせているのかというと全くそうじゃない。オランダ人って、大人や先生の重要な役割は「子どもに対して適切な枠組みを与えること」って考えてるんです。適切な枠組みを与えて、その中で子どもが自由と責任を持って行動する。

4,5歳のクラスの様子 「選択できる機会」があることが教室のつくりにも現れている

ある時、娘のクラスメイトのお母さんとこのことについて話したことがあって、彼女は大学で哲学を教えていたこともあって、オランダ人の考え方などをよく知っているので聞いてみたんです。「もし、あなたの娘(4歳)が自由に使えるお金で本を買いたいと言ったとすると、あなたならどういう風に買わせる?」と。僕は同じような状況で子どもの意思を尊重しようとするあまり失敗してしまったことが何回かあったんです。やっぱ小さな子どもは、好きなキャラクターが表紙だったら即決だったりするじゃないですか笑。すると彼女はこう答えたんです。「私なら、私がいろんなジャンルから10冊ぐらい選んで、その中から娘に選ばせるわ」と。彼女の答えは実にオランダ人らしくって、バランスが絶妙でしたね。大人が与えた「10冊の本という枠組み」と子どもが得た「色んな10冊から選べる自由」。このバランスには唸りましたねー。こんなことを毎回毎回考えながら、適度な枠組みと自由を子どもに与えて、自分で考え決められる機会を作っているのかと思うと、教育者としてめまいがしました笑

本の選び方を教えてくれた哲学者の女性 実際の暮らしから親として教育者として様々なことを学んだ

僕はこれまで子どもたちがなるべく成功するようにサポートしてきました。でもオランダでは、子どもたちが成長できるように学べるようにサポートしていると思います。なるべく実社会に近いような状況の中で、子どもに「自由」を与える。すると、子どもたちは「自分で考える」→「自分で決める」→「自分の責任で結果を受け止める」という大きな流れの中で学んでいく。

たとえば、僕らが大人が、英語力をアップさせようと思ったときに、考えることはたくさんありますよね。どんなプロセスでやるか、どれだけ時間をかけるとか、どういう方法を取るか、それを一人でやるか協働してやるか、誰にアドバイス聞くのか、本からアドバイスを得るのかYouTubeから得るのか、アウトプットの場をどうするかなどなど、英語力をアップさせる行動に行き着くまでにホントにいろんなことを考える。つまり、現実社会では目標を達成するまでにいろんなプロセスがあって、全体を見ながらどうプランニングしていくかが成果を大きく分けますよね。それを先生や親の方でサポートしすぎてしまうとプランニングから自分でやっていくという、すごく大事なトレーニングができない。そこをなるべくやらせていくのがオランダ人たちの基本的な姿勢で、この姿勢が生み出す学びは大きいと思っています。

4,5歳のクラスの1日の様子 同じ時間の中でおのおのが自分で学びたいことに取り組んでいる
(クリックすると拡大してご覧いただけます)

そんなことまで聞くの?オランダの保育士の1歳の子どもへの質問

「子どもの意思を尊重して選ばせる」ことでいうと、僕が圧倒されたエピソードがあります。ある保育園に行ったときに、保育士の人がおむつを替える台に案内して話してくれたんですが、「私たちは子どもたちがおむつを替えるときに、この台の前に連れてきて必ず子どもたちにあることを聞きます」と。何を聞くかというと、「あなたは、私たちに抱えてもらって台の上に行きたい?それとも、自分でこの階段を上っていきたい?」それを、1歳〜2歳のおむつが取れていない子どもたちに常に聞くって言うんですよ。こんな日常的な選択を自分自身で決めさせているんです。

僕らから考えたらそれは手間がかかるとか、それ以前の問題で、そんなところまで聞く意識すら無いじゃないですか。でも、そういうところまで「あなたのことはあなたが決めるんですよ」っていう姿勢で接していくんです。

オランダのおむつ台 子どもが自分で上ることができるように階段がついている

自分のことを自分で考えて言葉にするオランダの三者面談

そういう教育者の姿勢が、対象が中学生になると、期待通り、かなり進化します笑。オランダの中学校では三者面談のときに子ども自身がプレゼンをするというのを聞いたことがあったんですが、実際に中学校の先生にどんな風にプレゼンするかを聞いたところ、これを子どもたちに書かせるんだよと紙を見せてくれました。

こちらからPDFでもご覧いただけます。

中学校の教員としてこれを見て、驚かずにはいられなかったですね。三者面談で子どもが自分について考えている量がケタ違いなんです。これまで僕がやってきた三者面談で、一番話していたのは僕で、その次が保護者、一番話さないのが生徒でした。1年間で3回、3年間で9回こんなことをする訳ですから、そりゃ大きな差が出るぞと。

それに、非認知能力についての項目もありますよね。非認知能力というのは社会性・感情のコントロール・忍耐力などを指す言葉で、ソフトスキルとも言われます。このシートの中では、7つの項目があって、それぞれがレベルに分かれ表になっているんです。それを親子で塗りつぶしながら、自分がどんな人間なのかを少しずつ理解していく。自分のことを客観的に理解することを「メタ認知」っていうんですけど、この「メタ認知」や「非認知能力」は、学習していく上でも、仕事をしていく上でも非常に大事だって言われてるんです。学校教育の中で、国語や数学などの教科的な知識以外の部分にもフォーカスしているというのがよく分かりますよね。こういう風に、現実社会を常に考えながら、社会に出たときに必要な力をつけようとするもの、オランダの教育の特徴のひとつです。

非認知能力についての7つの項目(クリックすると拡大してご覧いただけます)

トライ&エラーの繰り返しが「大事なもの」への嗅覚を育む

1歳の子が「おむつ台にどうやっていくかを選ぶ」ことから、「中学生が自分の学びを分かって、次の学びを計画して、自分の力で進路を決定していく」ことにつながっていく。この2つのエピソードを聞くと、オランダ人たちが、子どもの状況に合わせながら、なるべく子ども自身に選ばせながら、学ばせて成長させようとしているのがよく分かりますよね。

「なぜオランダ人は大事なことを大事にできるのか?」この問いに対する答えは簡単には判断することはできないんですけど。オランダ人たちが「なるべく現実社会に近い形で、子ども自身に考えさせ、決断させ、実行する。そして、その結果を自分の責任として受け止めさせる」。これを小さい頃から繰り返しやっているからだと僕は思っています。そういうことを積み重ねていくと、全体の中で大事なことはどこかということが分かってくる。時間が限られていれば、大事なところに時間をかけ、細部には時間をかけない。そういうことを毎日の生活の中でトライ&エラーを繰り返しながら、体験を通して学んでいるんですね。そういう体験の中で培った「大事なもの・大事じゃないもの」への嗅覚は、彼らの人生の中のいろんな場面で生きていくんだと思います。

ちょっとしたことから「自分で考え決断し実行する」という積み重ねで大事なことが分かるようになる

写真は全て平山さんが撮影

聞けば聞くほど驚きがいっぱいの平山さんのお話。
次はオランダ人の「楽しむ力」についてです。続きはこちら

平山直樹さんの今後の活動予定

2月8日(土)13:00-16:30 @熊本県菊池郡 大津町オークスプラザ

講演会&ワークショップ 「イエナプランに学ぶ ーこれからの教育のゆくえー」
詳細・お申し込みは
こちら

2月24日(月)12:30-15:00 @熊本県八代市 八代ハーモニーホール
講演会&ワークショップ 「踊るイエナプラン(仮題)」

さらに1月下旬から3月上旬の期間で大阪府or京都府・金沢にてイベント実施予定

講演のご依頼・ご相談も受け付けております。
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