一昨日、ICF(国際コーチング連盟)に公式日本訳として認定された新しいコア・コンピテンシーの日本語版がアップされました。

世界的な基準を感覚に馴染んだ母国語で読むことができるということに対して、翻訳に携われれたICF JAPANの方々に対する大きな感謝の気持ちが起こるとともに日本語訳としてあてる言葉の一つ一つを繊細に選ばれたのだということを感じています。

ICFのコア・コンピテンシー更新に関して詳しくはこちら▼

「Invite」をあなたは何と訳しますか?

例えば、新しいコア・コンピテンシーの「Evokes Awareness(気づきを引き起こす)」というテーマの中にこんな項目があります。

Invites the client to generate ideas about how they can move forward and what they are willing or able to do

あなたならこれを何と訳すでしょうか?

日本語訳ではこのように表現されています。

どのように前進できるか、あるいは何を望み何が可能かについて、自分からアイディアを出せるようクライアントをいざなっている

Updated ICF Core Competency Model 日本語訳より


ここにある「いざなう」というのはどんなことを指しているのでしょう?


「いざなう」とは「さそう」という意味ですが、辞書や教科書を発行している三省堂の『図解 日本語の語彙』の中では「いざなう」は「さそう」の雅語(がご)であることが示されています。

江戸時代、国学者や歌人などが平安時代の和文語に用いられた和語(やま
とことば)を、風雅なことばとして尊重した。これを「雅言」などと称した。そのような、優雅で洗練されたイメージを伴う語を今日でも「雅語」と呼ぶことがある。

ー三省堂書店『図解 日本語の語彙』「語の分類」より


「優雅」とは「上品で美しい」「気持ちや雰囲気にゆとりがあるさま」を示しています。

「さそう」ということを「気持ちや雰囲気にゆとりを持ち、洗練されたやり方で行う」とイメージすると、「いざなう」という言葉の質感がより豊かに感じられるのではないでしょうか。

言葉の持つ意味と質感

このように、言葉には「意味」と「質感」があります。

「意味」とは、「invite=誘う=ある気持ちを引き起こさせる」
というように、言葉などが持っている概念を示したものです。


「質感」とは、「○○します=カジュアル、○○いたします=フォーマル」のように、言葉が持っている雰囲気を示したものです。

言葉にこめられた意味だけでなく質感を読み取っていくと、その言葉もしくは言葉が使われている文章や文脈全体が言わんとしていることに加えて表現しようとしている世界観をより深く理解することができます。

プロフェッショナルとしての成長と言葉との向き合い方

コーチングをはじめ、私たちが何かしらのプロフェッショナルになっていく過程では、様々なことを学びます。

それは同時に、様々な言葉に出会うということでもあります。


「守破離」は、道を極めていくために辿るプロセスのことを指していますが、言葉との向き合い方にも「守破離」があります。

言葉との向き合い方を変えていくことで、プロフェッショナルとしてさらなる成長を遂げていくことができるのです。


「守」は、決まった型を身につけるステージです。

コーチングであれば「コーチングスキル」や「コーチングフロー」を身につけることが守にあたります。

このとき私たちは、言葉の意味を先生が言っている通りもしくは教科書に書いてある通りに受けとめていきます。「自分がすでに知っている意味をそのままあてはめる」ということを行うかもしれません。

まず、「言葉の意味を理解する」というのが守のステージで行われることです。

「破」は、教えてもらった型を超えて自分なりの型をつくっていくステージです。

コーチングであれば自分なりの哲学やスタイルをつくっていくことになります。

このとき私たちは、改めて新鮮に言葉と向き合い、自分自身で言葉の定義をつくっていくということに取り組みます。

破のステージでは意味だけでなく「言葉の質感を感じる」ということが行われていきます。


「離」は自分なりの型さえも壊し、一つの考えに捉われず新しい視点を生み出し続けるステージです。

コーチングであれば、コーチング以外の領域の学びや人間哲学を深め統合させていくということになるでしょう。

このとき、一度自分で定義をした言葉の意味や質感も、さらに更新をしていくことになります。同時に、言葉や文章が発せられた背景や言葉を作った人の意識にまで関心が及ぶことになるかもしれません。

守破離の道を進むことを後押しする言葉との向き合い方

「守破離」は、無理に先を急がず、それぞれのステージにじっくりと取り組んでいくことが重要です。

プロフェッショナルとして守破離の道を歩んでいくということは意識そのものが成長していくということであり、意識そのものが健全に成長していくためには先を急がず、現在のステージを味わうことが必要であるためです。

そんな中でも、言葉との向き合い方についてはトレーニングをすることができます。トレーニングをしておくことで、意識そのものの成長が自然なタイミングで起こりやすくなっていきます。


ICFの新しいコア・コンピテンシーの日本語訳を読み「ふむふむ、なるほどね」「スクールで習った通りだな」と感じる場合、あなたは「守」の意識で言葉と向き合っていると言えるでしょう。

「あれ、これはどういう意味かな」「もともと英語ではどんな言葉が使われていたのだろう」ということが湧いてきたら「破」の意識で言葉と向き合っていることになります。

「そもそもこれはどんな文脈の中で作られたのだろう」「この文章の前提となっているものは何だろうか」ということが湧いてきたら、「離」の意識が発揮されています。


誰しもが言葉との向き合い方の癖を持っていますし、自分にとってやりやすい向き合い方というのがあります。

柔軟をすると身体が柔らかくなっていくように、自分が無意識に行なっている向き合い方とは違った向き合い方をすることで、だんだんと「向き合い方の可動域」が広がっていきます。


さらに私たちは、比較対象があると探究が起こりやすいと言われています。

ICFのコア・コンピテンシーであれば、英語の原文と日本語訳が併記されているものを読むことで、日本語訳だけを読んでいたときよりも様々なことが浮かんできます。

これまでのものと新しいものを比べることでそこにある変化や、現在特に大切にされているものに気づきやすくなります。

言葉との向き合い方が変われば、見える世界が変わる


改めてあなたは今、言葉とどのように向き合っていますか?

その向き合い方はあなたがプロとして成長することをどのくらい後押ししているでしょうか?


あなたが「守」のステージで型を身につけた後、「破」や「離」のステージを進み、真のプロフェッショナルになっていくときに必要なのは、さらなる知識やスキルを身につけることではありません。

大切なのは、あなた自身がどのように言葉や世界を捉えているかを自覚し、それを更新していくことです。

言葉との向き合い方が変われば、見える世界も大きく変わっていきます。

まずは「分かっている」「知っている」と思っていることや目の前にある言葉に、まっさらな心で向き合ってみてはいかがでしょうか。