2019年10月、ICF(International Coaching Federation:国際コーチング連盟)はコア・コンピテンシー(核となる能力要件)モデルの更新を発表しました。(資格認定には2021年に反映)

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このコア・コンピテンシーモデルは、ICF本部会員と非会員の両方を含む世界中の1,300人以上のコーチから収集されたコーチングの実践に関するエビデンスを24ヶ月に渡り分析して作成されたものです。

コーチングのプロセスにおいてコーチが行なっていることなどの中から、効果的なコーチングを行うために特に重要なことに関連する能力が抽出されています。

更新前のコア・コンピテンシーが作られたのは約25年前。

これまでのコア・コンピテンシーと新しいコア・コンピテンシーを比べてみると、コーチングやコーチの役割、コーチとして大切なことがどのように変化しているのかを知ることができます。

ICFのコア・コンピテンシーは多様なコーチングのスタイルやトレーニング歴、経験を反映して作成されているため、ICFの資格を取得しているコーチに限らず、コーチングを活用する上で一つの指針とすることができるのではと思います。

<こんな方に>
・コーチとして成長を続けたい
・より効果的なコーチングを提供したい
・更新されたコア・コンピテンシーの概要を知りたい
・学んだコーチングスキルを自分らしく活用していきたい
・国際基準に則ったスキルや在り方の開発に取り組んでいきたい
・新しいコア・コンピテンシーに則ったコーチの育成をしていきたい

・コーチングとは何か、コーチはどんな存在かを改めて知りたい
・自分自身の専門領域にコーチングを組み合わせて他者支援に活用したい

なお、本記事にはICFの発表をもとに私自身が行った考察が含まれています。異なる見解もあるかと思いますが、「そんな見方もできるのか」と読み進めていただければ幸いです。

ICFおよびICF Japanが公式に行っている発表についてはこちらをご参照ください▼
ICFコア・コンピテンシー(原文・英語:旧モデル、新モデル、更新に関する説明)
ICF Japanによる旧モデルの日本語訳新モデルの日本語訳

・本文内のコア・コンピテンシーの日本語訳はICF Japan発表の訳を参照、一部表現を変更し使用しています。

1. 最も大きな変更点 <コーチは「学びと結果を促進する存在」から「学びと成長を育む存在」へ>

ICFのコア・コンピテンシーは4つのカテゴリーから成っています。

4つのカテゴリーはコア・コンピテンシーの内容を分類したもので、カテゴリーに優劣はありません。

これまでのコア・コンピテンシーは次の4つの項目で構成されていました。

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・Aはコーチがコーチングを行う前提としてまず自分自身(コーチ自身)について必要なこと

・Bはコーチがコーチングを行う前提としてクライアントと共に取り組む必要があること

・Cはコーチがコーチングの際に取り組む必要があること

・Dはコーチがコーチングを行うことで目指すもの

に関連する項目、と整理することができます。

また、
・Aは「コーチはどのような存在か」
・BとCは「コーチングをどのように行うのか」
・Dは「コーチングを何のために行うのか」
について示している
とも言い換えることができます。

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今回の更新では4つのカテゴリーのうち1つの名前が変更になりました。

新しいコア・コンピテンシーにおける4つのカテゴリーは次の通りです。

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今回の更新でDの
「Facilitating Leaning and Results
(学びと結果を促進する)」が「Cultivating Leaning and Growth(学びと成長を育む)」へと変更されました。

このカテゴリーは「コーチングの目的」に関係する項目であり、このことだけでもコーチの役割がこの25年間で変化しているということが分かります。

ICFは今回の更新について” This updated model is an evolution rather than a revolution.”(今回の更新は革新ではなく進化である)と発表しています。

従って、大切なことが全く違ったものにシフトしたのではなく、「新しいコア・コンピテンシーはこれまでのものを含んでさらに進化している」と考えることができます。

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2. 各カテゴリーの大きな変更点の概要

続いて、各カテゴリーにおける大きな変更点を見ていきましょう。

ICFのコア・コンピテンシーの4つのカテゴリーはそれぞれ1つから4つの中項目、さらに各中項目の中の3つから11の詳細項目で構成されています。

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今回、カテゴリー名の変更に次いで大きな変更は、「A:Foundation(基盤を整える)」のカテゴリーに「Embodies a Coaching Mindset(コーチングマインドを体現している)」という中項目が追加されたことです。

これまでは倫理的なガイドラインや専門的な能力水準を満たすこと・コーチング契約を確立することが重視されていましたが、今回新たに「コーチ自身がコーチングマインドを体現すること」が重要な項目として加わりました。

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これは、コーチングの広がりとともに、ともすればスキルや資格の習得に意識が向いてしまう中で「コーチが自分自身や自己成長と向き合い続けることへの重要性」を示す内容とも捉えることができます。

(「コーチングマインドを体現している」の具体的な内容についてはこのあとご紹介していきます)

さらに先にご紹介した通り、Dのカテゴリーは「Facilitating Leaning and Results(学びと結果を促進する)」から「Cultivating Leaning and Growth(学びと成長を育む)」へと変更され、カテゴリー内の中項目も、ゴール設定や行動促進に関する複数の項目がクライアントの成長促進を重視した項目として統合されました。

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この変更は

・変動性や不確実性が高まる社会の中で、目標やゴールの達成ではなく、クライアント自身の成長に重きが置かれるようになってきている

・クライアント自身の成長に焦点を当てることが結果として行動や目標達成の促進につながることが分かってきた


などといった背景があることが予想されます。

その他中規模な変更点として

・企業内でコーチの役割を担う人が増えていることに伴い、コーチング契約の締結ではなく、コーチングを行うこと全体および各セッションや面談においてコーチングを行うことについての合意を結ぶことが重視されるようになった

・デジタルテクノロジー等の発展により新しいツールや道具を活用するようになっていることに伴い、質問などの手法にとどまらず、気づきを呼び起こすことそのものが重視されるようになった

という2点が挙げられます。

3. 各カテゴリーの変更内容

さらに、各カテゴリー内の項目がどのように変更されたのかを詳しく見ていきましょう。

– A:Foundation(基盤を整える)

この項目はコーチがコーチングの基盤を整えることに関連する項目ですが、「コーチはどのような存在か」についての変化も読み解くことができます。

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これまでのコア・コンピテンシーではコーチは「コンサルタントやセラピストとは異なる立場で、定められた倫理や行動基準に則りコーチングを提供する専門家」という位置付けでした。

2020年にはICFの呼称が「国際コーチ連盟」から「国際コーチング連盟」に変更されたことからも、新しいコア・コンピテンシーがコーチだけでなく「コーチングを活用する全ての人」「誰かの成長を願う全ての人」に向けられた内容となっていることが伝わってきます。

さらに新しく追加された「Embodies a Coaching Mindset(コーチングマインドを体現している)」の中には次のような詳細項目が盛り込まれています。

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このことから、コーチはスキルを学んだり資格を取るだけでなく、内省や感情を扱う能力や自己を客観的に捉える能力をはじめとした自分自身の成長に取り組み続けることが非常に大切だということが分かります。

– B:Co-Creating the Relationship(関係性をともに築く)

この項目は、コーチがクライアントとどのような関係性を築くかに関連する項目です。

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例えば、「合意の確立と維持」や「今ここに在り続ける」には次のような追加項目があります。

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その他の追加・変更項目からもコーチはコーチングについての合意を都度確認しながらクライアントが安心して自由に話ができる環境を積極的に作っていくことが求められているということが確認できます。

– C:Communicating Effectively(効果的なコミュニケーション)

この項目は実際のコーチングの中でコーチがどのようなコミュニケーションを取るかに関連する項目です。

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「Evokes Awareness(気づきを呼び起こす)」は、これまで「Powerful Question(人を動かす質問)」「Direct Communication(明確なコミュにケーション)」「Ceating Awareness(気づきの創造)」だった項目がまとめられたものです。

これまでは「Powerful Question(人を動かす質問)」の中に、「行動を引き出す質問」といった項目や「オープンクエスチョン」などの言葉がありましたが、新しいコア・コンピテンシーではこれらの項目や言葉はなくなりました。

代わりに次のような項目が追加されています。

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これらの変更から、コーチは質問を通じて行動を促進するだけでなくクライアントが自分自身について探索することに共に取り組む存在になってきており、そのための在り方が必要とされていることが分かります。

– D:Cultivating Learning and Growth(学びと成長を育む)

このカテゴリーでは、これまでゴール設定や行動の後押し、進捗の管理について取り上げられていた項目が「クライアントの成長促進」としてまとめられました。

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内容も、目標や行動の設定基準について具体的かつ詳細に定められていたものが次のような項目に変更されています。

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これらの変更から、コーチは定められた基準で計測することのできる目標や行動に沿ってクライアントが前進していくことを後押しするのではなく、クライアント自身が新しい尺度を創り成長していくことを支援する存在へと変化していることが分かります。

「目標達成に向けて質問をすること」だけがコーチングではないのです。

4. あなたのコーチングはアップデートされていますか?

ICFのコア・コンピテンシーの更新を題材に、コーチの役割の変化やコーチとして大切な在り方・関わりについてご紹介してきました。

実際にはICFの新しいコア・コンピテンシーは全部で63の詳細項目で構成されています。

その一つ一つを見ていくこと、これまでのものと比較すること、英語の原文を読むことなどを通じてコーチに必要な能力についてさらに深い理解を得るとともに、自分自身のさらなる成長のテーマを見つけることができます。

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この25年間で世界は大きく変化しました。

その中でコーチの役割やコーチとして大切な在り方も変化をしました。

今回ご紹介しませんでしたが、コア・コンピテンシーの変更箇所やその表現の変化から、ICF自体が組織の在り方や組織の社会的な意味を更新しているということも読み解くことができます。

あなたのコーチングはアップデートされていますか?

コーチの資格を取得した後も継続的学習や能力開発に取り組んでいますか?

自分自身が身を置く状況や文化の影響に気づき、それに捉われないでいることができていますか?

感情を整える能力を開発していますか?

「1on1をやらないといけない」という決まりの元、無理矢理面談をしているような状況になっていませんか?

質問やスキルに捉われず、今ここでクライアントが感じていることを一緒に探索することができていますか?

今この瞬間に自分自身が感じていることに気づいていますか?

クライアントの成長や成功を心から祝福できる自分で在れていますか?


コーチは、関わる相手が本来持っている力を発揮し喜び溢れる人生を生きることを後押しすることができる存在です。

コーチングを学んだ人だけがコーチなのではなく、誰かの成長を後押ししたいと願う全ての人がコーチです。


私たち一人一人が自分と向き合い成長を続けることで、大切な人たちをさらに力強く後押しすることができるようになります。

この記事があなた自身のさらなる成長や挑戦のきっかけになれば嬉しいです。