あなたは普段、誰とどんなコミュニケーションを交わしていますか?

そのコミュニケーションは、あなた自身や相手の行動・意識・成長にどのような影響を与えているでしょうか?

今日は私たちが普段、主に1対1(もしくはそれ以上)で他者と交わしているコミュニケーションの3つのステージ(段階)と、各ステージのコミュニケーションが私たちの行動や意識に与える影響をご紹介します。

<概要>
・コミュニケーションのステージ(段階)と各ステージの特徴や限界
・コミュニケーションのステージとコーチングの関係
・現在ぶつかっている課題を乗り越えていくためにはどうしたらいいか

<こんな方に>
・他者の成長や変容を後押ししたい
・自分自身の成長や発達とさらに深く向き合いたい
・個人や組織がぶつかっている課題を乗り越えていきたい
・企業内で1on1を実践している(実践を検討している)が、どうしたら上手くいくかヒントを知りたい

1. コミュニケーションについての前提

はじめにコミュニケーションについての前提を確認します。

「コミュニケーションスキル」という言葉から想像されるように、コミュニケーションは私たちひとりひとりが独自につくりだしているもののように思われがちです。

しかし実際にはコミュニケーションは他者と協働して行うものです。

自分自身とのコミュニケーションは他者とのコミュニケーションの土台になりますが、私たちが日常的に行うコミュニケーションの最小単位は1対1。

コミュニケーションは一人で行うものではなく、共につくるもの
なのです。

同時にコミュニケーションは環境や相手との関係性、文脈によって大きく変化します。

生きている人間同士が交わすのですから、コミュニケーションもダイナミックに変化をする生き物のようなものです。

さらに、コミュニケーションは私たちの意識の変容を後押しします。

「話しているうちにスッキリした」「やる気になった」という一時的な状態の変化だけでなく、「物の見方そのものが変わった」ということもコミュニケーションを交わすことで起こります。

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私たちが主に1対1で交わしているコミュニケーションは大きく3つのステージに分類することができます。

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2. Stage 1:井戸端会議のようなコミュニケーション

1つ目のステージは井戸端会議のようなコミュニケーションです。

身近な人とぺちゃくちゃと交わすおしゃべりには共感を示す言葉や態度が多く含まれており、安心感や仲間意識を強めることを後押しするとともに、リフレッシュやストレス解消にもなります。

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一方でこのステージのコミュニケーションは「お互いに同じ感覚を共有している」という前提が強く、「その感覚はどういうものか」「なぜそう感じるのか」「なぜそう思うのか」について突っ込んで話すことがありません。

その結果、自分以外の他者の視点を想像することを通じた新たな視点の獲得が起こらず、意識そのものの変容にも至ることができません。

同じ環境の中で同じような不満を抱えている相手と井戸端会議のようなコミュニケーションを続けると、ときに被害者的な意識や批評家的な意識が強まり、主体的にものごとに向き合うことができなくなってしまいます。

*「chat」という表記は、テキストでのチャットメッセージではなく「井戸端会議的なおしゃべり」を意味しています。

3. Stage 2:先輩・後輩型、対決型コミュニケーション

コミュニケーションの2つ目のステージはさらに二つの型に分けることができます。

一つ目の型は、上司と部下、専門家とクライアントの間で交わされるようなコミュニケーションです。

このコミュニケーションにおいては経験や知識がある人とない人というように立場の違いが明らかです。

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教える人・教えられる人、知っている人・知らない人など、関係性が明確で、主に一方向もしくは役割の決まったコミュニケーションによって、経験者の持っている知見を効率良く学習することができます。

一方で「正しいことを知っている人」「教えてもらう人」という関係性が固定的なため、その中で葛藤が起こりづらく、「教えてもらう人」の行動変化は起こるものの、双方の意識の変容が起こりにくい場合も多くあります。


それに対して、双方が独自の経験に基づく持論を持っている場合、コミュニケーションはディベートのような対決型になります。

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違った背景や考え方からの意見をぶつけ合うため、より良い選択肢を選ぶことができる可能性が広がります。

お互いに「違う」ということを認め合うことができる一方で、「あなたはあなた、わたしはわたし」「どちらもそれぞれの正しさがある」という捉え方をした結果、お互いに世界の捉え方は変わらないということも起こります。

ステージ2の二つの型に共通しているのは「正しい答えがある」という前提のもと、コミュニケーションが交わされているということです。

4. Stage 3:対話型コミュニケーション

3つ目のステージは、フラットな関係性で対話を行うステージです。

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上下関係や教える人・教えられる人という固定的な枠組みを超えて、その場で生まれる気づきから相互に学び合うことができ、行動の変化や意識の発達を後押しします。

ただし、どちらかが「教えてもらう人」もしくは「教える人」、「何かをしてもらう人」といった認識が強い場合、対話が深まらず、双方がその場から起こる新たな学びを得たり変容に至ることが難しくなる場合もあります。

このステージはさらに細かく3つの型に分類することができますが、ここでは大きく対話型とまとめます。

このように、コミュニケーションのステージによってコミュニケーションに関わる人に起こることが変わってきます。

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各ステージの特徴をまとめると次のようになります。
ステージ1:自分が持つ考えや他者と一体になった状態で交わされている
ステージ2:「正しい答えがある」という前提で交わされている
ステージ3:思考や答えの前提になっているものが更新され続けている

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それでは、私たちがぶつかる様々な課題を乗り越えるためには、どのステージのコミュニケーションが有効なのでしょうか?

次に、私たちがぶつかる課題の種類とコミュニケーションのステージの関係について考えてみましょう。

5. 私たちがぶつかる課題とコミュニケーションのステージ

ハーバード・ケネディスクールで25年間「最も影響を受けた授業」に選ばれ続けるリーダーシップに関する講義を行なっているロナルド・ハイフェッツ教授は、私たちがぶつかる課題を技術的課題と適応課題の2つの種類に分類しています。

技術的課題とは、既存の高度な専門知識や組織内の手続き等を組み合わせることによって解決することのできる課題。

適応課題とは既存の方法では解決することができない、人と人や組織と組織の関係性の中で生じる課題のことを指しています。

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コミュニケーションのステージ2の先輩・後輩型(ダウンロード型)コミュニケーションは、まさに技術や知識、経験の不足によって起こる課題を解決していくことに適しています。

同様に、ステージ2の対決型(ディベート型)コミュニケーションも、すでにある知識や経験の中からより適した解決策を見つけていくことができるため、技術的課題を乗り越えることに役立ちます。

ステージ2のコミュニケーションが「正しい答えがある」という前提で交わされている一方で、ステージ3のコミュニケーションは思考の前提となるものが更新され続けるため、適応課題を乗り越えることに適しています。

ステージ3のコミュニケーションは対話を通じて新たな視点を得ることによって、それまで自分が正しいと思っていたことを疑ったり、それまでとは違った枠組みで物事を考えたりすることができるようになります。

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このように、コミュニケーションのステージを変えることで、私たちは技術的に解決することができなかった適応課題を乗り越えていくことができるのです。


続いて、コミュニケーションのステージやぶつかる課題とコーチングの関係を考えてみましょう。

現在日本でも様々な企業でコーチングが導入されていますが、そもそもコーチングを活用するとどのような課題を乗り越えることができるのでしょうか?

それを理解するためには、コーチングには現在大きく3つの種類(世代)があるということを知ることが後押しになるでしょう。

6. 第一世代のコーチング:目標達成志向

第一世代のコーチングは目標達成を主なゴールとしたコーチングです。
自らの中にある理想や欲求の実現に向けて、自ら行動していくことを後押しする。

そんな特性が企業の中では「コーチ型マネジメント」として活用されるようになりました。

コーチ型マネジメントのためのコミュニケーションは、ステージ2の先輩・後輩型(ダウンロード型)コミュニケーションを発展させたものです。

一方的に教えるということによって起こっていた受け身な姿勢から、主体になることを後押しするためにコーチングのスキルが用いられています。

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7. 第二世代のコーチング:システミック・協働志向

第二世代のコーチングは組織に広くその効果を波及させることを目的としたシステミック志向のコーチングです。

主に、ステージ2の対決型コミュニケーションによって起こる課題を解決するために組織開発の文脈の中で用いられています。

コーチングという共通言語や共通のコミュニケーション様式を活用することによって、組織内のコミュニケーションそのものを活性化させ、部署間・部門間の壁を取り払い、異職種・多職種の連携等を後押しします。

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8. 第三世代のコーチング:内省・生成志向

第三世代のコーチングは協働して振り返りを行うことによって、自己認識を高めることを後押ししながら、過去、現在の出来事の中に一貫性を見出し、それを将来に繋げることに取り組みます。

思考の前提そのものを更新し続ける対話を行うためには、コーチは自分が一体となっている慣習や価値観を客観的に捉え、距離を置くことができるようになる必要があります。

対話型のコーチングは意識変容の後押しにもなりますが、一般的に企業内で行われるコーチングスキルの習得だけでは第三世代のコーチングを行うことは難しいのが実情です。

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9. コーチングで適応課題を乗り越えることはできるか

現在、私たちが直面している課題の多くは技術的に解決することが困難な適応課題ですが、企業内で主に用いられている第一世代のコーチング(コーチ型マネジメント)や第二世代のコーチング(組織開発コーチング)は、適応課題を乗り越えるのに効果的なのでしょうか?

それに対する答えは、Yesであり、Noでもあると言えます。

もし、コーチ型マネジメントを行う目的が「主体性を高める」ということであり、その前提として、正しい答えがどこかにある・技術や知識を身につければ課題を解決することができるという考えがあるのであれば、適応課題を乗り越えることは難しいでしょう。

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部署や部門を超えたコミュニケーションを後押しする第二世代のコーチングでは、コミュニケーションを交わすことを通じて人と人や組織と組織の関係性の課題を解決することも多くあります。

しかし、自組織が無意識のうちに共有している慣習や文化に目を向け、それ自体を更新することに取り組まなければ、さらに高度な適応課題を乗り越えることは難しいでしょう。

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これらはあくまで同じ組織に所属する人同士がコーチングを行った場合で、プロのコーチがコーチングを行った場合はこの限りではありません。

いずれにせよ、コーチングをする側・受ける側という関係が固定的な場合、コーチ側の考え方がコーチングを受ける側の限界をつくるということが起こります。

そんな中、適応課題を乗り越え、双方が成長を続けていくにはどうしたらいいのでしょうか?

10. コミュニケーションのステージを発達させていくために

そのために必要なのは、さまざまな相手と対話をし続けるということです。

最初にご紹介したように、コミュニケーションは生き物のようなものであり、環境や状況、関係性や文脈によってそのステージは大きく変化をします。

同じ組織に所属する人はもちろんのこと、そうでない人たちとコミュニケーションを積み重ねていくことで、自分が当たり前だと思っていることを前提にしない、対話型コミュニケーションが身についていきます。


もう一つ大切なのは、自分たちが交わしているコミュニケーションについて客観的に振り返りをすることです。

自分たちが交わしているコミュニケーションのステージや状態に気づくことができれば、それを意図的に選択をすることもできます。

コミュニケーションについてのコミュニケーションを交わすことができるようになることが、コミュニケーションのステージを発達させていくことにつながります。

加えて、大切なのが「現在のステージを味わう」ということです。一人一人の意識の発達と同様、コミュニケーションも、現在のコミュニケーションにおける課題にぶつかることで発達していきます。

まずはコミュニケーションそのものに、目の前の人にまっすぐに向き合うこと。それが何よりも相手との間に交わすコミュニケーションとあなた自身を成長させていきます。

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最後に、普段私たちが交わしているコミュニケーションがどのステージに当たるかについてざっくりとですがステージごとの分布をご紹介します。

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これを、対話の専門家であるコーチとのコミュニケーションに置き換えると次のような分布になることが予想されます。

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*オットー・ラスキー著『Measuring hidden dimensions: The art and science of fully engaging adults』(加藤洋平訳:『心の隠された領域の測定:成人以降の心の発達理論と測定手法』より各段階の人口分布についてのデータを抽出し作成。
*合計が100%にならないのはステージ1以前についてのデータを除いているため。

このように、コミュニケーションの専門家であるコーチが相手であっても、対話的なコミュニケーションを行なっている割合は全体の10%に満たないくらいなくらいなのです。

特に対話的なコミュニケーションは、素早く答えを出したり、たくさんのことを速く効率よく片付けていくために交わすコミュニケーションとは全く違った性質のものであるため、実践をしていくのが難しいと感じるのもとても自然なことです。

また、必ずしもある特定のステージや型のコミュニケーションが正しいというわけではなく、それぞれの場面や目的に合わせたコミュニケーションを活用していくことが大切です。


コミュニケーションは共につくっていくもの。

ひとりでがんばる必要はありません。

まずはぜひ、あなたが「もっと知りたいな」「もっと話したいな」と思う人と話しをする時間を、いつもより少しだけゆったりと取ることから始めてみてください。

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*本記事におけるコミュニケーションの段階については成人発達理論における発達段階(慣習的段階、自己主導段階、相互発達段階)の組み合わせによって生まれるコミュニケーションを3つの段階として整理しています。