「成長」や「変容」という言葉を聞くと、何か新しい知識を得たり、高尚な取り組みをすることを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

私自身、数年前に成人発達理論やインテグラル理論を学び始めたときにそんなイメージを持っていました。

「成長に関する理論を学ぶこと」が、「自分を成長させること」だと思っていました。

確かに、理論を学ぶことはそのメカニズムについて学ぶことでもあり、成長や変容の後押しになるでしょう。

しかし、意識の成長や変容というのは日々、目の前のことやひと、自分自身とどう向き合うかの積み重ねによって起こるものであり、その取り組みはとても身近なものなのだということを最近、改めて実感しています。

このレポートでは、現在参加しているDiamond Approachという精神修養のプログラムについての実践と学びをシェアしていますが、今回はそれに加えて、5月に参加した(来週最終回が開催される予定)セルフ・コンパッションの講座の中で学んだ、「苦しみや痛みに対する向き合い方」について、共通する考え方をご紹介したいと思います。

意識の成長や変容に関心がある方が、具体的な実践に取り組むことの後押しになれば幸いです。

<こんな方に>
・自分自身の「在り方」自体を成長・深化させていきたい方
・経営者として、プロフェッショナルとして「器」を成長させていきたい方
・自分自身の意識を成長させることや感性の発揮に取り組んでいる方
・スキルの習得では乗り越えられない壁にぶつかっている方
・認知能力や内省能力を成長させていきたい方
・インテグラル理論を学び、統合的実践にさらに取り組んでいきたい方

1. あなたは苦しみや痛みにどんな風に向き合っていますか?

苦しみや痛みという言葉を聞いて、どんなことをイメージしますか?

どんな記憶が呼び起こされますか?

それらにどんな風に向き合っていますか?


私たちは普段、思考の多くを、過去に起こったことを思い出したり、まだ起こっていないことを気にかけたりすることに使っています。

特に、苦しかったことや悲しかったことはそれらを思い出しては忘れようとし、思い出しては忘れようとしを繰り返していることも少なくありません。

1度起きた出来事を自分の中で何度も反芻し、その苦しみの記憶をさらに増幅させてしまっているのです。

もしくは、「苦しかったこと」を押し込めていることもあります。

そんなときは「本当は感じていること」が別の形で表出してしまいます。

誰かの言動によって起こる感覚や感情は、一見「あの人の言動が引き起こした」というように思えますが、実は、自分の中にもともとあったものが、外からのトリガーによって噴出しただけなのです。

それに気づかないままでいると、人間関係が上手くいかなかったり、苦しみを避けるための選択ばかりをして、本来持っている力を発揮できないということが起こってしまいます。

では、自分の中にある苦しみや痛みと、どのように向き合えばいいのでしょうか。

2. コンパッションという体験

Diamond Approach のオンラインコースの 5月のテーマは「Green Guide」でした。様々な感情とどのように向き合っていけばいいのか、どうしたら自分自身の開放性を保つことができるのか。

それに対する提案が、「コンパッション」です。

Diamond Approachiの共同創設者である A. Hameed Ali(A. H. Almaasはペンネーム)はコンパッションについて次のように述べています。

Compassion is a kind of healing agent which helps us to tolerate the hurt of seeing the truth. The function of compassion in our work is not to reduce hurt; its function is to lead to the truth. Much of the time, the truth is painful or scary. Compassion makes it possible to tolerate that hurt and fear.
– A. H. Almaas, 『Diamond Heart Book One』

コンパッションは、真実を見る痛みを許容することを後押ししてくれる癒しの力の一つです。コンパッションの役割は、痛みを減らすことではなく、真実へと導くことです。多くの場合、真実は痛みや恐れを伴うものです。私たちはコンパッションよってその痛みや恐怖を許すことができるようになります。

では、コンパッションとは何でしょうか?

日本語では「思いやり」と訳すことができます。

しかし、他の英単語と同様、日本語の「思いやり」と、ここで述べられている「コンパッション」は完全に同じ意味かというとそうでもありません。

「コンパッション」がどんなものかを体験するのが、このモジュールにおける実践であり体験とも言えるでしょう。

コンパッションの実践として紹介されたのが、モジュール4のエクササイズであるRepeationg Questionです。

Repeating Question とは、「同じ質問を何度も繰り返し、その質問に対して、毎回浮かんできたことを言葉にする」というものです。

Repeating Questionはこれまでのモジュールでも実践をしてきました。

これまでご紹介したRepeating Questionはこちら▼

Green Guide での3つの質問はこちら▼

<Repeating Questionsの内容>
①Tell me a way you avoid emotional hurt.
②Tell me something you feel hurt about.
③Tell me a way you experience kindness.


<日本語の意訳>
①あなたが感情的に傷つかないようにする方法を教えてください。
②あなたが傷ついたと感じていることを教えてください。
③あなたが優しさを経験する方法を教えてください。

<Repeating Questionsの方法>
やり方①:2人組で
質問をする人を決める。質問をする人は、相手が答える間、証人として静かに聞き続ける。質問をし、相手が答えたら、「Thank you」と言って、また質問を繰り返す。①と②は、それぞれ10分間続け、10分経ったら役割を交代する。③は、15分間、交互に質問し、交互に答える。
①A(10分)→①B(10分)→②A(10分)→②B(10分)→③A→B→A→B(全部で15分)と順番に進んでいく。

やり方②:1人で(音声ガイドを利用)
オンラインで共有されたガイドをもとに、それぞれの質問に10分間ずつ答え続ける。質問のあと10秒ほど間があり、Thank you の返答があり、また同じ質問が繰り返される。

<Green Guide のRepeating Questionsのポイント>
・質問を聞いているとき、自分の感覚や感情に触れる。
・「考え」ではなく、今実際に経験していることに意識を向ける。
・経験から言葉が流れてくるようにする。

3. 感じる、言葉にする、ただ共にいる

この「コンパッション」というテーマとプロセスについてさらに実践的な体験をもたらしてくれたのが、ロバート・ゴンザレス氏によるセルフ・コンパッションのオンライン講座でした。

ロバート・ゴンザレス氏はNVC認定トレーナーであり、30年以上にわたりNVC(Non-violent Communicaton:非暴力コミュニケーション)とスピリチュアリティを探求し、Living Compassion ”コンパッションを生きる”と名付けたワークを世界中でシェアしています。

全5回のコースが来週で最終回を迎えますが、これまでの4回の内容からDiamond Approachとの共通点を多く感じるとともに、より、汎用性が高く、知識などがない人でも取り組みやすい内容だと感じています。

セルフ・コンパッションのプロセスは大きく言うと次の3つのステップで構成されています。

<セルフ・コンパッションの3つのステップ>
①感じる
②言葉にする
③共にいる

①感じる
自分自身の中に感情や感覚が呼び起こされた出来事や刺激を思い出してそれを感じる。

②言葉にする
その出来事に対する自分自身の観察や評価、物語などを言葉にする

③共にいる
生まれてくる感覚や感情、欲求、エネルギーとただ共にいる

*実際にはもっと流動的なプロセスですが、簡素化して記載しています。

Diamond Approachとセルフ・コンパッションの共通点は、「今ここに立ち起こる感覚(エネルギー)の流れを味わうこと」であり、そのための入り口として身体感覚に意識を向けるということも共通しています。

これは心理療法で用いられるフォーカシングのプロセスにも似ていますが、フォーカシングの方がより探究的な問いや言葉遣いを用いるのに対して、Diamond Approachとセルフ・コンパッションでは、繰り返し同じ言葉を問いかけたり、意識を向ける先を誘導していくことによって、内的なスペースをつくっていくことを後押しています。

4. 目撃者という存在

これまでDiamond Approachのエクササイズでは、ペアもしくは一人でもできる実践方法が紹介されており、私自身どちらの方法でも実践を行なってきました。

そんな中、セルフ・コンパッションで行なったペアのワークで、改めて「見守る人」の存在の意味を感じたので、それについてもご紹介したいと思います。

セルフ・コンパッションの中ではペアワークをする際に、プロセスをガイドし見守る人が「silent empathy」をもってその場に立ち会うということを行いました。

静かな共感を持ってただ見守る。


ただ見守ることにどんな意味があるのだろう。

オンラインでもその力を感じることができるのだろうか。


私自身、そんな風に思っていました。


そして数回のペアワークを経て実際に感じたのは、「見守ってくれる人がいるからこそ、安心して自分の中にある小さくて、臆病な部分を自分自身が見守ることができる」ということ。

「見守る」と言っても、ただ見ていればいいというわけではありません。

自分自身の存在の全てを持ってそこにいる。

そんな在り方をできてはじめて相手も、存在そのものでそこにいられる。

「プレゼンス」というのは、肉体的な身体を内包して存在する、もっと大きな存在なのだということや「在り方」という言葉が示すものを、今回のワークを通して身を以て体験することができました。

インテグラル理論で言うところのWitness(目撃者)の存在を代替してくれる人がいることによって、自分自身の目撃者の視点も発露し、養われていくのではないかと、今はそんなことを感じています。

5. 変容への道は実践をすること、変容しようとすることを手放すこと

ここまで、Diamond Approach とセルフ・コンパッションの取り組みをもとに苦しみや痛みとの向き合い方をご紹介してきました。

では、苦しみや痛みを味わい、言葉にし、共にいると何が起こるのでしょうか。

これはぜひ、実際にご自身で体験してみていただければと思います。


なぜ、「何が起こるか」をここではご紹介しないのか。

それは、人は知識として知ったことは分かった気になってしまうためです。

分かった気になると、残念ながら多くの人はそれで満足し、実践をしないままになってしまいます。

それではこの先、同じように様々な考え方や方法論を知ることを繰り返すだけになってしまうかもしれません。

この記事をここまで読み進めてくださった方はきっと、自分自身を成長させていきたい、もしくは他者の成長や変容を後押ししたいという想いをお持ちなのではと想像します。

であればぜひ、まずは自分自身に向き合うことに取り組んでみてください。

今回ご紹介した方法に限らず「How」については様々な書籍などでも情報を得ることができます。

何か一つでいいので、どうぞじっくりと取り組んでみてください。

そしてぜひ、体験したことを言葉にしてみてください。

そしてもう一つ、私がDiamond Approachとセルフ・コンパッションを通して改めて感じていることを最後にご紹介します。

それは「変容しようとすることを手放したときに変容は起こる」ということです。

前へ前へ、上へ上へ。

そう思う気持ちを受け止めながらも、今見ている景色を存分に味わい、足元の根っこをしっかりと伸ばしていくことができたときに、気づけば新たな扉は拓けていて、命はさらに輝きを増している。

変容は私たちの生きるプロセスにあるものであって、変容のために生きているのではない。今はそんな風に思っています。