私たちは、普段物事を外側から眺めて描写する「思考モード」で話すことに慣れています。しかし、能力や意識の成長に取り組むためには、話し方を自ら切り替えていく必要があります。
心理学の分野では、クライアントがどのように話をするかとカウンセリングの成否がどう関係するかという研究が1960年代から心理学の大家であるカール・ロジャースを中心になされてきました。
この研究では、カウンセリングの成否はカウンセラーのスキルではなく、クライアントがどのような話し方(自己探究の仕方)をするかによって決まるということが分かっています。
そしてこれはコーチングにも同様のことが言えるということを、私はこれまでのクライアントとのセッションの経験から実感しています。
もちろん、クライアントがどのような話し方をするかはコーチやカウンセラーの関わり方に影響を受けますが、話し手自身が自分のモードを意識することによって、同じ時間の中でもより深い気づきを得られるようになります。
現在日本のフォーカシング(身体感覚を元に自分の心に気づくプロセス)で用いられている7段階のスケーリングは、組織行動学者のデイビット・コルブが提唱している経験学習モデルとも重ね合わせることができます。
【デイビット・コルブの経験学習モデル】
具体的経験→内省的観察→抽象概念化→能動的実践というサイクルを回していくと知識や技術がより深いものになっていくという理論

【EXPスケール(Experience Scale:体験過程尺度)】
段階 1:自分が関与していない外的な出来事を語る(ニュースキャスターのような話し方)
段階 2:自分の関与する知的あるいは行動的なことについて語るが、感情については表現されない
段階 3:出来事と感情について触れるが、更に自分自身について述べることはしない
段階 4:出来事に対する体験や気持ちが話の中心で自分の体験に注意を向け深めていく
段階 5:自分の体験から仮説提起、問題提起、自問自答などを行う
段階 6:体験からさらに新しい意味の側面が開く
段階 7:気づいたことが、他の出来事や経験に広く 応用・展開される
段階1から3は出来事中心
段階4は気持ちが中心
段階5から7は創造過程中心
『体験過程様式の推定に関する研究 : EXPチェックリストII ver.1.1 作成の試み』池見 陽・久保田 恵実著より
意識の変容は段階4を超えた話し方になってはじめて起こるとされていますが、段階4と5はコルブのモデルの内省的観察に、段階6と7は抽象概念化に当てはめることができます。
段階4以上の話し方を行うことができる対話には何が必要か。それは「間(ま)」、スペースです。自分自身の感情との間、対話の相手との関係性の間、時間的な間、空間的な間。人はスペースがあってはじめて新たな問いを自分の中に立てていくことができます。
対話の相手の能力や意識の成長を後押しするためには、自分自身の中にも十分なスペースがあることが必要です。
あなたは普段、どんな話し方をしていますか?
あなたの中にはどのくらいのスペースがありますか?
あなたは学習したことをどのくらい実践していますか?
実践したことをどのくらい振り返っていますか?
振り返ったことをどのくらい自分の言葉で表現していますか?
様々なことが時間と空間、言語を超えて学べるようになった今だからこそ、学びを学びで終わらせない、実践と内省と新たな意味の創造のための対話、そしてさらなる実践が重要となってくるのではと思っています。