「おらんだみやげ」では、わたし(佐藤草)の暮らすオランダの人々の働き方や生き方・医療などの社会制度の話やスーパーフードをはじめとした食の話、そして欧州他国の話などをご紹介しています。

今回はオランダの医療に関係する制度や仕組みの違いをご紹介します。

ことの始まりは、先日、オランダでアントロポゾフィー医療に携わる精神科医の方とご一緒したことでした。アントロポゾフィーの考え方についてはこれからまた深めていければと思っていますが、まずはオランダの医療制度に関して、日本と大きく違うところがあり興味深い・医療以外の考え方にも通ずることがありそうだと感じたので書き留めておきます。

単純にオランダの医療制度が良い・正しい・優れているということを言いたいわけではありません。医療を含め、オランダの制度にも課題はあるし、生きる中で抱える悩みもそれぞれの人にあるはずです。

そんな中で、単なる比較論・二元論ではなく、制度や慣習を超えて、私たちがこれからどう生きていこうかと考えるきっかけになればと思っています。

と、硬いことを書きましたが、まずは「違う考え方がある」「違うやり方がある」ということを知っていただき、普段「当たり前」だと思っていることに新たな選択肢を見出すきっかけにしていただけると嬉しいです。

「医療制度」というのは私たちの世界にとってどのような位置付けなのかを確認するために、1,2ではインテグラル理論を基にした4象限の考え方についてご紹介しています。制度の違いを早く知りたい!という方は1,2は飛ばして読み進めていただければと思います。

 

0. 日本とオランダの医療に関連する制度や違いのまとめ

網羅するとキリがないし、私も医療の専門家ではないので、今回、オランダの医師の方に教えていただいた3つの点について簡単にご紹介します。

先にまとめておくと…

<日本とオランダの医療に関連する制度・仕組みの違い>
①診療報酬の決め方
 日本:行った医療行為に応じる
 オランダ:医療行為にかかった時間に応じる

②医療者の働き方
 日本:フルタイムが主流・休暇が取りづらい
 オランダ:パートタイムも一般的・長期休暇もしっかり取る

③医学部にかかる費用
 日本:平均すると6年間で約2,000万円(他の学部よりかなり高額)
 オランダ:EU圏出身者は6年間で約12,000ユーロ(約150万円 他の学部と同じ)

1. 世界を4つの象限で捉えてみる

まず、「制度」とは何かについて、インテグラル理論における4象限の考え方を適用させてみましょう。インテグラル理論とは、アメリカの思想家であるケン・ウィルバーが提唱している「世界の捉え方」に関する理論です。(もっときちんとした説明が色々あるかと思いますが、とてもざっくり言うと)「対立・矛盾するように見える様々なものごとの関係性を説明する」と言ってもいいかもしれません。なので、これからご紹介する4象限の考え方も、特別なものではありません。私たちの前に存在している世界を紐解いているととらえていただければと思います。

インテグラル理論では世界を4つの象限から捉えることができるとしています。4つの領域とは、「個人の内面」「個人の外面」「集団の内面」「集団の外面」です。外面とは、目に見えるもの・計測可能なもの、内面とは、目に見えないもの・計測できなものと言い換えられます。

このように、どんなものごとでも、4つの側面から成り立っている、もしくはそれぞれの側面から捉えることができるというのが4象限の考え方であり、活用法でもあります。

2. 医療制度とは何か

具体的にどういうことかというのを、医療をテーマに考えてみましょう。私たちが病気になったときや怪我をしたときに一般的に処置として行われるのが個人の外面に関すること、例えば医療行為であったり、薬の処方、行動の改善などであり、主に私たちの身体的なことに対して何らかの対処が行われます。

また、直接行われる処置以外にも、医療制度や病院という存在そのものがあることで私たちは病気や怪我に対処をすることができます。これは、集団の外面にあたります。

さらには医療者と患者との間に交わされるコミュニケーションや社会の、地域コミュニティなども、病気とみなされた状態から回復することを後押ししてくれるものとなります。一方で、社会的な慣習が患者と呼ばれる人を苦しめる場合もあるでしょう。意識や文化といった、集団の内面にあるものは目には見えませんが、目に見えるものと同じように私たちに大きな影響を与えているのです。

そして、病気になったり怪我をしたときというのは目に見える身体的なものだけでなく、私たちの心もその影響を受けています。例えば手術をすれば良くなるということでも、意思や信念としてそうしたくないということもあるでしょう。

このように、医療、もしくは人が健康であるということは、個人の内面・個人の外面・集団の内面・集団の外面それぞれに十分な支援や配慮があって実現されるものだと捉えることができるのです。

4つの象限は相互に影響を与え合い、関連し合っています。

この考え方に基づいて見ると、「医療制度」というのは、「医療」に関する一面を取り上げているに過ぎないということもできます。

なのでそれだけで単純に「あの国がいい」「こっちが正しい」ということもできないということを改めて確認した上で、オランダと日本の医療に関係する制度を見比べてみましょう。

3. 日本とオランダの医療に関連する制度や仕組みの違い

それでは具体的な制度や仕組みの違いについて見ていきましょう

①診療報酬の決め方
 日本:行った医療行為に応じる
 オランダ:医療行為にかかった時間に応じる

オランダの家庭医は、登録されている人数と、実際の診療時間(1人あたりの上限はあり)に基づき診療報酬が支払われるそうです。例えば、近年「ティール組織」の書籍で取り上げられ注目を集めつつあるビュートゾルフ(BuurtZorg)という在宅介護を提供する組織でも、スタッフの「生産性」というのは勤務時間のうち介護・看護行為を行っている時間の割合で測られるということ。量ではないのですね。

それでも、オランダの家庭医の平均診療時間は7分とのこと。日本でも「3分間診療」と言われる診療時間。7分は長いのか、短いのか…

②医療者の働き方
 日本:フルタイムが主流・休暇が取りづらい
 オランダ:パートタイムも一般的・長期休暇もしっかり取る

医療者に限らず、オランダではパートタイムが一般的です。賃金は労働時間に応じて調整されるものの、役職や権限などはフルタイムかパートタイムかに影響はされません。昇進をすると、昇給ではなく休みを増やすことを望むオランダ人も多いと聞きます。

他の職種に比べると医療者はフルタイムで働くことが多いものの、家族との時間に対するプライオリティが高いため、パートタイムができる場所に職場を変えるということもよくあるとのこと。

ちなみにオランダで一番専門医が多く人気でもあるのは精神科だそうです。(オランダの医師は約56,000人、そのうち家庭医が約25,000人で、精神科医は3,000人だそうです。)なぜかというと、夜勤などがなくパートタイムがしやすいこと、アートと近い領域と捉えられているからだということで、その理由はとてもオランダらしいなと感じます。

③医学部にかかる費用
 日本:平均すると6年間で約2,000万円(他の学部よりかなり高額)
 オランダ:EU圏出身者は6年間で約12,000ユーロ(約150万円 他の学部と同じ)

オランダでは高等進学校(高校)を卒業することができれば、一部の学部を除き、入学試験なしに大学に入学することができるそうです。ものすごく勉強ができないといけないわけでもないし、ものすごくお金がかかるわけでもない。

これは、その後の働き方にも関係してくるのではと感じます。

4. 制度の違いが人の意識の違いをつくる!?

ざっくりと3つ、日本とオランダの医療に関係する仕組みの違いをご紹介してきましたが、いかがでしょうか。仕組みの違いによって、その先にどんな違いが生まれてきそうでしょうか。

ちなみに、オランダの人は、自分が患者としてしか扱われないことを嫌うそうです。医者が自分と目も合わせずにパソコンの画面やレントゲン写真、データやカルテだけを見ていると、どんなに腕が良くても「あの先生はちょっと…」と良い評判にはならないのだと。

「人と人とが関わるのだから、大切なのは人間性だ」とオランダのドクターは話してくれました。

繰り返しになりますが、オランダの医療制度も完璧ではありません。例えば産科では、担当医性ではないことから起こるミスなどもあり、周辺諸国に比べると周産期死亡率が高いという課題があったりもします。また、やはりご紹介した制度や仕組みというのは、世界を4分の1だけ見ることのレンズで見ているということにすぎません。

その限られた面だけを切り取って、比較・評価するのではなく、患者や医療を活用する人にとって、医療者自身にとって4つの象限それぞれがどのような状態になっているかに目を向けてみると、これまで「課題」だと思っていたものに対して、アプローチの選択肢が増えてくるのではと思います。

こうしてみると、教育もですが、医療も、携わっている方々自身がまずとても過酷な環境にいらっしゃるということを感じます。(ご紹介した3つの制度の違いも、まずは医療者にとっての4象限に影響を与えているのではと思ったりもしています)

社会的なシステムや制度を変えることは難しいかもしれせんが、それ以外のことで、時間がかかるとしても何か社会全体の考え方を変えていくような取り組みをしていかなければ、日本の未来は立ち行かなくなってしまうのではとも思います。

最後に、「病気とは、それを病気だとみなす社会や文化があって病気になる」「患者とは、それを患者だとみなす社会や文化や人がいて患者になる」というのが、今回お話をしている過程で私の心に浮かび上がってきたことでした。(このあたりのことはまたアントロポゾフィー医療に関連して書ければと思っています)

個人的に興味があるアントロポソフィー医学のことをはじめ、社会的な意識や慣習が人に与える影響と、それをどのように変えてけるのかについても今後、体験をもとに考察をしていければと思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
ご感想やご意見・リクエストなどありましたらぜひこちらからお寄せください。

参考:
インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル
 
ケン・ウィルバー著 加藤洋平監訳 門林奨訳
インテグラル・シンキング ー統合思考のためのフレームワーク』鈴木規夫著
JAOG(日本産婦人科医会)『欧州に学ぶ医師の働き方 EU指令の影響とオランダの実態
公益社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会 『2016年オランダ視察レポート