934. 『天気の子』と『鬼滅の刃』の最終巻を見て思うこと

 

久しぶりに書斎にやってきたが、何とも寒い。小さな部屋の窓の下に暖房が備えられ、もう1ヶ月以上付けっぱなしにしているが、外の寒さが厳しくなってきたのだろうか。それでも今朝ゴミを出すために表の通りに出たときは「意外と寒くないな」と感じた。庭の葡萄の蔓についていた葉はすっかり落ちた。

昨晩は夕食後、新海誠監督の『言の葉の庭』と『天気の子』をamazon videoで視聴した。『天気の子』は昨年ハーグの映画館で観たため二度目の視聴だったが、一度目に観たときよりも随分と「冷めた目」で観ていた自分がいた。感動屋なところがあるので、基本的には映画でもアニメでも大いに感動するのだが、昨日は「これがヒットするというのはどういうことなのだろう」と思った。

『君の名は』もそうだったが、『天気の子』の中で描かれているのは、「自分と世界がつながっている」「自分が世界に大きな影響を与えている」という、一見宇宙と自分が一体になっている世界観のようにも見えるが、実際のところ、根底にあるのは世界の一部だけを見て世界の全体だと思い、その小さな世界と自分の関係性を強く見出すある種、マジカルというか呪術的な世界観のようにも思える。「大いなるもの」とのつながりがあるように見えて、非常に部分的な世界に対する認識を持っているような感覚を拭えないのだ。そこには私の捉え方が大きく反映されているのかもしれないが、「この映画を、高校生や大学生が観て共感するのはともかく、大の大人が同じ感覚で観ているとしたら大丈夫だろうか」という気がしたのだ。

最近は(以前からとも言えるが)分かりやすく、手っ取り早く解決策が手に入れられるような書籍が売れているとも聞く。そんなことから「日本の人々の精神性の幼さ」のようなものを危惧する気持ちが生まれているが、それはそっくりそのまま自分に向けて、自分自身を振り返る必要があるだろう。人生に対するオーナーシップのようなもの、人生全体を楽しむ力のようなものをどれだけ身につけ、発揮しているだろうか。

そんな「冷めた目」は、その後、昨日発売された『鬼滅の刃』の最終巻の漫画をオンラインで読んでいるときも現れていた。『鬼滅の刃』の全体は人間という存在そのもの(それは同時に鬼という存在でもある)についての認識を深めることを後押しするような深い内容だったと感じているが、最後の最後に、思いの外「しゃんしゃん」と終わってしまった感覚を感じた。私たちの心に向けられた矢が、あまりにさっぱりと引き取られてしまったという感じだ。

今後作品を続けていくことはしないという作者の意図があってのことだと思うが、『鬼滅の刃』という作品を通して、自分自身の心と直面し、鬼として切られることを通じた癒しのようなものを体験していた人々が「良い体験をした」と完了してしまうような、そんな可能性を持った終わり方に思える。「完了」は本質的な変化を生まないのではないかというのが、極端だが私の感じるところだ。気持ち悪さや葛藤、未完了が変容を後押しすると思っているが、その感覚は作品の中でこれまで十分に生み出されてきたということだろうか。

こう書きながら、私は人間の意識の変容や影と向き合うことに終わりがないという認識を持っていることが分かる。だからそれをあたかも「終わった」ように納めてしまうことに違和感を感じるのだ。よく読めば「終わってはいない」ということを感じさせるようなエッセンスが散りばめられているのかもしれない。

幻聴が聞こえるような精神病(というものが本当にあるかは分からないが)の人が聞いている言葉はその社会の中に漂っている言葉だという考え方があるということを聞いたことがあるが、漫画やアニメも、作者というよりも、そのときの社会や文化によって生み出されているものなのだと思う。漫画家や映画監督、画家などは、イタコのような存在でもあるのではないかと思うのだ。普通の人には聞こえない、でも社会に流れている音楽を聴き、表現することができるからこそ、多くの人の心に強く響く作品を作ることができる。

では、『天気の子』や『鬼滅の刃』が生まれる現在の日本にはどんな空気が流れていて、どんな意識に包まれているのだろうか。

「大ヒット」というのは、多くの人がその対象に自分自身の内面を投影している証だとも言えるだろう。自分自身の中にあるはずのものを、そのまま自分に見出すことができないのだ。自分の外側にあるものへの投影で自分を癒し、何かに憧れ、他者に望みを託す。そうして「からっぽ」の人が出来上がっていってはいないだろうか。

社会の変化が劇的に起こるのは世代交代の要因が大きいという。古い世代が死に絶えれば、社会の価値観が変わるのだ。心が解放された人々が生きるようになるのが先か、それともゴーストがひしめく社会になるか。日本の未来に、希望と諦めの両方を見ている。2020.12.4 Fri 10:20 Den Haag