812. 蝉のいない夏の終わりに

たっぷりの水で溶かした白を太い筆に含ませ画用紙を撫でた。

そんな雲が空に広がっている。

上空を飛ぶカモメのお腹がオレンジ色に照らされている。

シャワーヘッドから出てくるお湯のあたたかさを気持ちよく感じた。それだけ、体が冷えていたということだ。

その名残を惜しむ間も無く、夏は過ぎ去って行った。

蝉のいないこの国では、一匹だけ残った蝉の声に夏の終わりを感じることはない。

「うだるような暑さ」

そんな言葉にあたるオランダ語はあるんだろうか。少なくとも「蒸し暑い」なんて言葉はないのではないだろうか。英語では「humid」(湿気のある)という言葉はあるが、アルプス山脈より北の地域では「humid」を、明確な身体感覚とともに使う人はあまりいないのではないかという気がしてくる。もしかすると普段湿気の少ない場所に住んでいるとその分、少しでも湿気がある場所では敏感に「humid」を感じるのかもしれないが。

ともかく、夏は終わり、新しい季節の始まりがやってきた。

天気予報アプリによると現在気温は19度、本日の最高気温は25度、明日はまた最高気温が28度まで上がるようだが、土曜日以降、最高気温はかろうじて20度を超えるくらいになる。

オランダ人たちがこぞってバカンスに出かけるのは、仕事なんかしていられない暑さというのもあるが、夏が短いということもあるだろう。1ヶ月以上も続く夏をわざわざ満喫しようなんて気にならないけれど2週間もせずに走り去っていくとなるとしっかり味わっておこうという気が湧いてくる。

夏はオープンテラスの席でのんびりお茶やアルコールを楽しむ人も多くて、日本から来た人が見ると「オシャレ!」なんて思ったりもするだろうけれど(私も今でもそう思うが)実際のところ、オランダは寒い時期の方が長くて、テラスの席でのんびりできるのは限られた期間なのだ。

日本を出て、「四季」と呼ぶよりももっと多様な季節があることを知った。

今日本に帰ったら二十四節気や七十二候がつくられた理由がもっともっと実感できるだろう。古の時代に比べたら気候変化は極端になってしまっているかもしれないけれど、それでも日々、小さくて新しい季節が訪れているのだと思う。

オランダで過ごす新しい季節に日々名前をつけるように過ごしていきたい。2020.8.19 Wed 8:27 Den Haag