605. 季節の音、世界の景色

耳慣れない音が、まどろみの中でずっと聞こえていた。文字で表すと「ビビビビビ」が一番近いだろうか。「ビ」と言っても、尖った、危険を感じるような音ではない。もっとまろやかな音だ。機械音と言うには穏やかで、鳥の声と言うには機械的。不定期で中庭に響く。

最近、「この季節に鳴き始める鳥」がいることに気づいた。日本で言うひぐらしの鳴き声にも近いその鳥の声は、冬の間は耳にすることがなかった。記憶を通して聴くと夏の終わりのような感覚が生まれるが、日本人にとっての鶯の鳴き声のように、オランダ人にとって春が近づいていることを知らせる声なのだろう。

にわかにカモメの声が大きくなった。中庭を見回しても姿は見えないが、数羽のカモメが近い距離で鳴き声を交わしていることが分かる。

少し前に、寝室からバルコニーにつながる窓を開けようとしたところ、隣の家の1階の屋根の上に黒猫が丸まっているのが目に留まった。にゃあと話しかけてみるも反応は薄い。

日差しは明るいが外の気温はまだ低い。そんな中、なぜあの猫はわざわざ外で体を丸めているのだろうか。家の中であればぬくぬくとあたたかいはずだ。動物の生態というのはよく分からない。人間が分かった気になっていることは世界のほんの一部であって、分かっていることの何百倍もまだまだ分かっていないことがあるのだろう。それは人間同士も同じだ。「分からない」というところに身を置いて耳を澄まし続ける。そうしないことの利点は多々あって、それがこれまで人間の存在を守ってきたのだと思うけれど、そろそろその習慣を変えるときがきてもいいのではないかという気がしている。

世界はコロナウイルスの脅威にさらされているが、本当にそうなのだろうか。ある地域では紛争が起こり、ある地域では食糧不足が起こり、ある地域では疫病が広がっている。世界全体が平和だったことなどこれまでいっときもなくて、一部の経済的に恵まれた国の人たちが「世界の平和」を感じてきただけなのではないだろうか。

とは言え、私たちが生きられるのはそれぞれの認識の中の世界。今日目にするものの中に美しさを見出して、良い一日だったと一日を終える。そうやって心の平和を感じることができたら、それで十分だろう。2020.3.24 Tue 8:06 Den Haag