562. 季節の便り

中庭には少しずつ新しい季節がやってきました。
見ると、となりの家のガーデンハウスの端の木に赤い花が首をもたげています。
あれは椿か山茶花か。もしかしたら他の花かもしれません。
花首から落ちるか、花びらが散るか。終わりを迎えるときに分かることになるのでしょうか。

家の前のガーデンハウスの上には足先の白い黒猫が座り、赤い実のついた枝を食んでいます。
これからは庭の木の先についた白い蕾が膨らんでいくのを毎日眺めることになるでしょう。

今日は近くの商店街に散歩に出かけました。
週末にでているハーリング屋さんがいるかなと思ったら案の定、商店街の途中に小さな屋台を出していました。おじいちゃんとおばあちゃん、息子さんに、さらにその娘さんかな。
訪れる近所の人たちといつもわいわい、楽しそうに話している様子を見るのが私は大好きです。

注文をすると、その場でふわふわのパンを二つに切って、間にハーリングを乗せ、みじん切りにした玉ねぎをかけてくれます。

「はいどうぞ」

そうやって手渡してもらったハーリングパンをガブリ。美味しいなあと思わず笑みがこぼれると、それを見て、おじいちゃんもおばあちゃんもお父さんも娘さんも微笑んでくれる。誰かと一緒に「美味しいね」って言葉にし合える時間も幸せだけど、言葉にせずに身体中で感じる時間もなんだかとても幸せです。

ケバブやさんもそうだけど、注文をすると、目の前で、自分のために、まっすぐに作ってくれる。そうやってつくられたものを手渡しされる。それはもしかしたら「手当て」のような力があるんじゃないかと思っています。目の前の人と、目を合わせて、心を向けて、出会っていく。そんな風に過ごせるのがオランダの心地いいところだと思っています。

さっきガーデンハウスの上にいた猫が、今度は隣の保育園の庭で遊んでいます。遊具の階段を昇ったり降りたり。庭の端に置いてあるベンチの下を行ったり来たり。

窓から外を覗くと、保育所とは反対側、西側の2軒先の家の屋根の上にも小柄な黒猫の姿が見えました。1年半前、この家に来たときにあの猫を見たとき、小柄だから子猫だと思ったのだけれど、今も大きさはあまり変わらないまま。でも、屋根を歩く足取りの軽やかさ、いつも新鮮に世界を見つめるその姿から、若い猫なのかなという気がしています。しかしそれは、若さのせいではなく、個性なのでしょうかね。

時折、ごおごおと強い風が中庭を通り抜けていきます。

日本も少しずつあたたかくなっているのでしょうか。
足腰が悪くなってきているお父さんが、歩くのがゆっくりになっているあなたと一緒に散歩をするのがちょうどいいいと言っていたことを思い出します。ゆっくりゆっくり階段を降りて、またゆっくりゆっくり階段を上がってくる。そんな時間を今も過ごしているのでしょうか。
お母さんは相変わらずスポーツクラブでバタフライを練習していますか?

そういえば、庭で遊ぶ黒い猫とあなたは同じ柄をしていますね。黒い身体に、靴下を履いているような白い足先と前掛けをしているような首元。あなたがまだ両手の平に乗るくらい小さいときにやってきて、私のおなかの上で寝ていたことを思い出します。あなたの耳が聞こえなくなって、道端の猫を見下ろして吠えることもなくなったとお母さんが話していました。それでもお母さんがあなたに何か話しかけるときがあるでしょう?「ずっと一緒にいようね」って言っているんですよ。

実家にいる、16歳を過ぎているであろうギンちゃんへ。オランダの草より 2020.2.15 Sat 15:00 Den Haag

563. 土曜の夕暮れ、書斎での考え事

遠くで、救急車の音が聞こえるような気がするが、本当にこの音は聞こえているのだろうか。音というよりも「名残」のような、そんな振動の存在をイメージしている私がいる。

外はすっかり暗くなった。少し前から、ポツ、ポツという音が聞こえる。書斎の窓には片手で数えられるほどの水の跡が付いている。

パートナーがオランダを離れ、1ヶ月が経った。まだ1ヶ月か。もっとずっと長い時間を一人で過ごしているように感じる。その時間感覚は今が冬だということとも関係しているだろう。一日の中で暗い時間が長く、雪は降らないものの雨はよく降っている。春が待ち遠しい。

1ヶ月後の予定が入りはじめ、そういえばサマータイムはいつからだろうと思った。調べてみると3月の最終日曜日からということだ。あと1ヶ月半。それは実質、冬の終わりということになるのだろうか。欧州、少なくともこれまで暮らしたことのあるドイツとオランダは、日本よりも冬の期間が長いように感じるが、サマータイムという区切りがあることによって、なんとなく、「それでもまだ1年の半分は冬ではないのだ」と思うことができる。

欧州のサマータイムは2021年には廃止見込みということで、それが実現するなら今年が最後のサマータイムということになる。だからどうということもないのだが…。サマータイムがなくなるということは、えっと…。週末だけ特別に設定している日本の朝8:00からのセッションは24:00からのまま。25:00からよりも24:00からの方が身体も意識もずっと楽だ。日本の企業との打ち合わせは基本的には日本の16:00以降で設定しており、それはオランダの朝8:00にあたる。サマータイムになるとそれ9:00からとなる。サマータイムの方が朝はゆっくりということだ。そして、日照時間と日没時間は、サマータイムがなくなると、1時間遅くなるということになる。夏場は一番日没が遅いときには22:30頃日が沈むがそれが23:30頃日が沈むということになる。なんだか不思議な感じがするけれど、遅くまで明るいのは気分としては楽しい。寝付くのは難しくなるだろうか。いや、ロングスリーパー体質の私にとってはあまり支障はないだろう。なんだかんだ生活に大きな影響はなく、時差を切り替える計算をしなくて良いから少し楽になるくらいだろうか。

今後、季節ごとにいろいろな場所に拠点を移すことを考えると、企業との打ち合わせを含め、日本のクライアントとご一緒する時間はやはり日本時間の16:00から22:00くらい、遅くとも23:00くらいまでの間にとどめておくのがいいだろう。どこにいても、一日の半分は静かに過ごし、数時間を集中してクライアントとやりとりをする時間に充てたい。

中庭を吹き抜ける風の音が強くなった。

両肩に少し重みを感じるのは、今朝、寝すぎたせいだろうか。今朝は7時頃、腹痛に襲われて目が覚めた。腹痛というか、激しい胃もたれと言った方がいいだろうか。昨晩夜中にセッションを終えた後、レーズンパンのトーストにココナッツオイルを塗って食べたのがその原因だろう。寝る直前に食事を摂ると、睡眠の時間が身体を休める時間にならなくなってしまうというのは当たり前ではあるが、身を以てそれを体験した。

最近、電子書籍を購入することが多くなっているが、紙の本に比べてどうも目が疲れやすいように思う。ソファで本を読み、頭が前にもたげすぎる姿勢になっているのだろうか。Kindleだと、分からない英単語をすぐに調べることができるので便利ではあるが、夜読むのであれば紙の書籍の方がいいようにも思う。そもそもそんなに遅くまで書籍を読むということ自体が頭に負担がかかる気もするのだが…。学びたいこと、実践したいことは尽きないものだ。2020.2.15 Sat 19:02 Den Haag