424. やさしいことば

今日はいつにも増して家の中が静かだ。上の階の住人がおらず、3階建ての家に私一人が目覚めたからだろう。窓の外からポツポツという音が聞こえる。今日も1日は雨から始まっているようだが、まだ外の様子は分からない。ときおり、トラムや車、バイクの通りすぎる音が聞こえてくる。

普段よりは早い時間からいくつかの予定があり、それに向けてすでに思考も声も目覚め始めている。

昨晩は久しぶりに、星野道夫さんの「旅をする木」という本を開いた。星野さんがアラスカに暮らしながら、誰かに向けて書かれた手紙のような形式になっている本だ。

優しくて、力強くて、奥深い。

平易な言葉で書かれながらも、世界の美しさ、深遠さを教えてくれるような感じがするのは星野さんがそれだけ世界に深く向き合い、自分自身の中から生まれる言葉を置いていったからだろうか。難しいことを難しいままに言うこともできる。それの方が、「難しいことが言える人」に見えるかもしれない。しかしそれを、身近な言葉、自らの経験から来る言葉で表現したとき、言葉は本当の意味でその人自身のものとなり、体験はもう一度、いや、何度でも、その人に教えを与えてくれるものになる。

コーチングセッションの際も、クライアントが自らの経験や現在、未来に新たな意味を与えたとき、その美しさに涙が出そうになることがある。専門的には「そういうことが起こる」と言われていることでも、知識としてそれを知っているのと、自らの経験からそれを見つけるのでは、飲食店のメニューだけ見て「ふーん」と思ったのと、実際に食べてみたのくらいの差があるだろう。クライアントの言葉に耳を傾けるとき、自分の身につけている専門知識が、ちっぽけで、意味のないものに思えてくる。その人自身の力を信じて、その言葉と言葉にならないものに耳を澄ますこと以上に大切なものなどあるだろうか。

何があるか分からないところからも自然に浮かび上がってくる言葉がある。想いがある。
今日もひたすらに、世界に耳を傾けていく。2019.10.25 Fri 7:53 Den Haag