419. 落ち葉時計

中庭のガーデンハウスの屋根に落ち葉が降り積もっている。木の枝から、屋根へ、地面へ。あ、これは、ゆっくりとした砂時計なのだと思った。いや、砂時計が、木の葉が落ちていく様子を模したのか。こうして見ている間にも、時折葉が落ちる。自然の姿を眺めていれば、時計も、カレンダーもいらないのかもしれない。

これは、昨日までは見ていなかった景色、感じていなかった感覚だ。

昨日の午前中に以前の日記を編集していたとき、ほんの1,2ヶ月前は朝7時台でも外が明るく、中庭の景色がよく見えていたのだということに気づいた。私はそれを頼りに、内なる感覚にアクセスしていたのだ。外の景色を見ていると、気づけばそれが内なる景色になっている。内なる景色だと思っていたものが、外の景色となっていることもある。内と外の境目はもはや存在しないのかもしれない。しかし、内なるもののきっかけとなるのは、私にとっては今のところ、見えるもの、聞こえてくるものだ。もしかしたら、真っ暗な朝の中庭を眺めても、色々なことが立ち現れてくるのかもしれない。見えないと思っているもの、聞こえないと思っているものに、もっと目を凝らし、もっと耳を傾けよということだろうか。微かな感覚を、もっと自分自身の中に辿れということなのだろうか。

今こうして、鮮やかに季節の移り変わりを教えてくれる中庭の景色は、「私たちに目を向けるのもいいけれど、もっと他の世界もあるよ」と教えてくれているのかもしれない。

ともあれ、明るい時間に書斎で作業をするのはとても気持ちがいいということが昨日分かった。そして、書斎の机にクローゼットの中にあった子供用の座卓を乗せると、立って作業をするのにちょうどいいことも。

もっと外へ。もっと内へ。もっとダイナミックに。もっと静かに。それでも向かうところは、人としての深みのようなものなのだろう。ゆっくり潜る。そんな言葉が浮かんできている。2019.10.22 Tue 9:07 Den Haag

420. 隙間植物

夕暮れを追いかけるように、書斎にやってきた。と言っても、日はとっくに沈んでいるのだが、中庭の色彩がなくなる前に、少しでもそこにある色を感じておきたかった。今は微かに、木々の葉の、黄色く染まっている部分の明るさを感じる。太陽の光は、雄大に、そして偉大に、世界に彩りを与えてくれている。しかし、明かりがないからといって色がそこに存在しないわけではない。目に見えないものを感じる時間を、この闇は与えてくれているのだろう。

今日は、夕方、18時頃にスーパーに買い物に行った。そんな時間に買い物に行くのは、初めてと言っていいくらいだったかもしれない。いつのまにか止んでいた雨が、ほどよい湿気を残していっていることを、玄関の扉を開けた瞬間に感じた。思ったよりも空気はやわらかい。言葉にすることはできないが、何か、季節の匂いのようなものを感じた。これがいつか、オランダの秋の匂い、もしくは冬の始まりの匂いになるのかもしれない。スーパーからの帰り道も、湿った落ち葉の積もった道を機嫌よく通り抜けて帰って来た。

外に出るのが楽しくなったのは、普段自分が無意識にやっていることに名前がついたというのもあるかもしれない。

「隙間植物」

それは、これまで無意識にたくさんの写真を撮ってきた、道の片隅に伸びる植物の生き方でもある。そしてそれは、人間の生きる姿、本来持っている生命の力にもつながるのだと思う。散歩や買い物が、「隙間植物を見つけにいく時間」だと思ったら、何かとても楽しみになった。

パソコンに保存してある写真を辿ると、私が隙間植物の写真を撮るようになったのは、5年ほど前、ちょうど会社員を辞めた頃からだということに気づいた。道の脇に生える小さな植物の存在に気づけるほどに、ゆっくりと呼吸をし、ゆっくりと歩くようになったということだろう。何にも所属しない自分になって、心細い自分を、名も無い草花に重ね合わせていたのかもしれない。

その頃の私は、雨上がりに、蕾の中に溜まった水に雫を見つけるのも好きだった。あの小さくて可愛らしい輝き。

今は、思ったよりも長く続く雨に、その後に見える輝く世界のことを忘れてしまっていたようだ。

今日はもう一つ、一日の中で、自分自身の内側にある言葉に深く向き合う時間を持つことを忘れてしまっていたことにも気づいた。パソコンの前に向かい、言葉を織ろうとする時間は長かったが、それは、どこか、自分の外側にある「それらしいもの」を捕まえようとする構えにすぎなかったように思う。心の奥底にある感覚に耳を傾け、自分の頭で考えぬく。明日からは、必要な時間以外はできるだけパソコンを閉じて、自分自身に向き合っていきたい。パソコンを使う時間を決めてしまうのもいいかもしれない。どんなことでもすぐに調べることができるのは便利だが、それを続けていると、いともたやすく情報の消費者になってしまう。エネルギーと情報の生産者になること、何より、土を耕すことに、これからは力を入れていきたい。2019.10.22 Tue 19:37 Den Haag