380. 変わる天気と葡萄の香り

片付けと洗い物、拭き掃除、掃除機がけを終えて、流していた音楽を止めた。弾んでいた音が落ちていく。静けさが戻ってくる。寝室の、開け放った窓の手前に引いた白いカーテンが、風を受けてふわりと舞い上がる。書斎の机の前に座り窓から中庭を覗くと、喉元の黒猫が中庭の真ん中にあるガーデンハウスの上に丸まっていた。先ほど掃除を始める前に見たときとほぼ同じ位置にいるが、先ほどは見えていた先っぽだけ靴下を履いたように白い前足が、くるりと胸元に折りたたまれている。こうして書いているうちに、猫はおもむろに立ち上がり、そしてささっとガーデン連なるガーデンハウスの上を駆けていった。すっかり昇った太陽は、ブラインドを下ろさないと眩しいくらいに、雲の向こうから輝いている。ここ数日間、雨の日が続いていた。こんなに晴れているのは久しぶりかもしれない。いや、そうでもないか。オランダの天気は変わりやすい。1日の中でも何度も、こんなに晴れたり曇ったり、雨が降ったりを繰り返している。

身体の調子はすっかり良くなった。体調が良くなったらボルダリングジムに行きたいと思っていたが、今日・明日で行くかは迷うところだ。ボルダリングは身体も思考も感覚もふんだんに使う。せっかく戻ってきているエネルギーをまた一気に使ってしまうことにもなるかもしれない。しかし、エネルギーの生成機関のようなものが動き出していることも感じる。言葉にされることを待っている感覚たちもいる。今日は近場でも散歩に出て、身体を動かし感性を揺らすとともに、言葉と向き合っていきたい。日々、できる限りのことを言葉にしていくことは、感じる余白をつくることでもある。もう言葉にすることはないというくらい毎日日記を書いていたら、もっともっと真っさらな状態で日々を過ごし、人の話を聴くことができるのかもしれない。

庭の葡萄の蔦には、丸い葡萄の実の連なる房がいくつも下がっている。先日1階に住むオーナーのヤンさんが庭の手入れをし、伸びていた葡萄の蔦もその2割くらいを残して切り落としていたが、葡萄の実は残してあるように見える。もしかすると実がついているところは切りづらかっただけなのかもしれない。ヤンさんは来週から3ヶ月のバカンスに出かけるはずだ。その間にあの葡萄の実はしおれ、落ちていくのだろうか。たまにやって来て葡萄の実をついばむ鳩たちも、さすがにあれだけの葡萄は食べきれないだろう。葡萄畑の側を通ると、葡萄の香りがするという話を聞いた。ここではまだ、葡萄の香りというのを感じたことはないけれど、もしかするとその微かな香りはすでに、もう随分前から、この部屋を訪れているのかもしれない。

にわかに空が翳り、雨粒が落ちてきた。さっきまであんなに晴れていたのに、オランダの天気は本当に変わりやすい。またきっと今日も何度も、晴れたり曇ったり雨が降ったりするだろう。オランダの人は、自分の心は自分が決めることを知っている。まずは洗濯物を干し、今日のことを始めていくことにしよう。2019.9.28 Sat 11:41 Den Haag

381. 青い光と星の声

目を閉じると、微かに聞こえていた星の声がはっきりと姿を現した
いつも見守ってくれている優しい鈴のような音

吸う息とともに、私を包む空間は縦に伸び
吐く息とともに、横に広がる

宇宙の彼方から地球の中心繋ぎ、地平線を抱きしめる

子どもたちが、小さな声で話しかけては消え、話しかけては消える
大丈夫だよと、空が言う

どのくらいの時間が経っただろう

目を閉じたまま、両手で作った三角形を額の前にかざすと青い光が見えた

手を遠ざけると赤くて小さな光に
近づけると青くて大きな光に

本物の目で見て
本物の心で聴いて

そうすると、無の中の無限が、
空の中の宇宙が見えてくる、と

誰かが言った

優しさで世界を包みなさいと
青い光が教えてくれた

2019.9.28 Sat 夜 Den Haag