366. 長いはじまりの終わり

スキポール空港からハーグに向かう電車が地下から地上へと上がると、西の空にオレンジ色に染まる飛行機雲が重なり合っているのが見えた。交差する人生のように、それぞれの目的地に向かう糸が織りなす儚い布がまばゆい光を放つ。何度スマートフォンのカメラを向けても、直接目にした景色には叶わない。私たちが日々、小さな画面に目を落としている間に通り過ぎている美しい景色がそこにある。

金曜の夜のスキポール空港は心なしか普段よりも人が多く感じた。通りかかった到着ゲートの周辺で、若い女の子たちの声が聞こえる。映画に出てくるチアリーダーの掛け声のように、息を合わせ、声を跳ね上げる。誰かを応援しているようにも聞こえるが、到着ゲートの前に陣取り、時折黄色い声を上げているところを見ると、誰かが出てくるのを待っているのだろう。女の子たちは、大人っぽく見えるがおそらく中学生くらいだ。中学生に人気のアイドルグループが来ているのだろうか。そんなことを考えながら、どんな人が出てくるのか見届けたいと、人混みの中首を伸ばしていると、女の子たちが待ち受けているのとは別の出口から出てきた若い男の子二人を見て、女の子たちがそちらに押し寄せ、先頭にいる女の子二人はそれぞれの男の子とハグをした。一瞬、その女の子たちのボーイフレンドがどこかから戻ってきたのを女の子の友達一同で迎えているのかと思ったが、代わる代わるハグをする様子を見るとどうもそうではなさそうだ。日本で言う、駆け出しの韓流アイドルと、そのファンたちのようなかんじだろうか。典型的なオランダ人よりも少し切れ長の目で平坦な顔立ちの男の子たちは、女の子たちよりもさらに若いように見えた。

乗り換えのために長距離電車を降りると、ひんやりとした空気を感じた。これはもう、秋ではなく、冬の始まりの空気だ。欧州に来て丸2年。新しい季節はいつも突然やってきた。今になってみると、6月以降の天気の良い日にハーグの人たちがこぞって海へ向かっていた気持ちが分かる。既に日没時刻は日照時間が一番長かった時期よりもずいぶんと早くなっているけれど、これからさらに早くなる。欧州で一度目の冬は、あまりに早く暗くなる中で気分も沈みがちにならないようにするのが精一杯だった。昨年、オランダではこの時期どうやって過ごしていたのかあまり覚えていない。ドイツとオランダを行き来し、目の前の手続きなどにも追われていたのだろう。オランダで二度目、欧州で三度目の冬、不思議と寒さや暗さを恐れる気持ちはない。大切だと思うことに日々取り組むことができているという実感、そしてこれからまた、新しいことをつくっていけるという実感があるからだろう。何に自分が集中すべきなのかが分かっている。長い始まりが、やっと終わろうとしている。2019.9.20 Fri 22:10 Den Haag