356. 猫の見る景色、出発の朝

書斎の机の前に座ると、中庭の中央にあるガーデンハウスの上を、黒猫が歩いているのが見えた。「幼い黒猫」と呼んでいた猫だ。あっという間に幼さはなくなってしまうのかと思っていたが、まだその身体はひょろりとしなやかで、どこか貫禄のある別の猫たちとは違う。トットットットと、弾むように屋根の上を歩き、ガーデンハウスの屋根から下を見下ろしたかと思ったら、姿を消し、我が家の下に住むこの家のオーナーのヤンさんの庭に現れた。庭をそろそろとすすみ、首を傾げているようにも見える。「あれー、なんか、スッカスカになったなあ」と、先日、紫陽花の茂みが切られた場所あたりを見て思っているのだろうか。猫たちはいつも世界を新鮮に見つめている気がするが、何もかもが新しく見える世界の中で、何が本当に新しいのかも分かっているのではないかという気がする。

今朝は、長いこと夢を見ていた。途中で、「もう起きてもいいだろうな」と思ったが、なんとなく意識の向こうに感じる世界が暗かったこともあり、そのまま夢の中に居続けた。今日も舞台は学校のような場所だった。今覚えているのは最後の方の部分だ。覚えていることの一つ目は同級生の女性が「結婚することにした」と話、ある男性と一緒にいたが、その相手が随分と年が離れていて驚いたということ。二つ目は、足の先から血が出て、止まらなくなり、バーレーボールほどの直径の水たまりのようなものができていたということ。目覚めたときはもっと覚えていたが、今、みるみる夢の記憶が遠ざかっている。ベッドから起きだしながら、「血の水たまりのようなものを夢で見たのは初めてかもしれない」と考えていると、ふと、それが、昨日食べたビーツから出た水分の色であることに気づく。黒みがかった赤というよりも、ピンクがかったような赤。血の水たまりを見てもさほど怖い感じがしなかったのは、その色がビーツから出た水分の色のように、鮮やかで美しかったからだろう。昨晩、いつも食べているレタスと豆腐と一緒に皮の剥いてあるビーツ二つを電子レンジであたためたら、思いの外、ビーツからたくさんの水分が出て、その色の鮮やかさに見入ってしまった。水分に浸かる豆腐も、ピンクに染まっている。それでもまだなお、ピーツそのものの色も濃い。ビーツは「食べる輸血」とも言われるが、どうやってこんな赤と栄養分を作り出すのかと不思議になる。

今日は、午前中のセッションを終えたらすぐに出かけることになる。そのため、先に、旅の支度と、掃除を済ませておきたい。旅と言っても隣町に滞在するのだが、今回はそこからさらに色々なところに足を伸ばす予定があるので、とても楽しみなのとともに、気温に合わせた服装に注意が必要だ。と言ってもこの季節の洋服にさほど選択肢はない。先日旅から帰ってきてそのままにしてあるスーパーフードのパックに、足りなくなっているものだけを足し、味噌とオイルを詰める。先日の旅で、小さなお湯のみがないと白湯を飲むことをしなくなってしまうことに気づいたので、小さなお湯のみと、小さな急須も持っていきたい。「やることがたくさんある」と、急いた気持ちになってしまうが、急ぐほどゆっくり、一つ一つのことを為していきたい。そうしていると自然と心と体も整ってくるだろう。2019.9.12 Thu 7:58 Den Haag