330. 連なる山に囲まれた街で

ココナッツオイルを口に含んでオイルプリングをしながら太陽礼拝のポーズを繰り返した。小麦若葉とヘンプパウダー、アマニ油を水に溶かしたドリンクを飲む。いつもと変わらない朝。しかし、窓からは少しくすんだような様々な色の家、そして、先の部分に雲がかかった壁のようなものが見える。見る限りずっと、左右に山が連なっているようだ。あれはアルプスの端の方かもしれない。開けた窓からは、ひっきりなしに駅に入ってくる電車の音が飛び込んでくる。

昨日、案の定、飛行機の着陸の衝撃とともに目が覚めた。スキポールからジュネーブまで1時間10分の短いフライトの中で、機内のスタッフが忙しくサンドイッチと飲み物を配り、サンドイッチを食べ終わってまたうとうとし、目を開けると、隣の席に座った男性が手元に私のゴミも合わせて2つのゴミを持っており、近づいてきたゴミ回収のスタッフに渡した。お礼を言うと、何か言葉を返してくる。ほどなくしてまた眠気がやってきて、気づいたら、飛行機はブレーキをかけつつ滑走路を走っていた。せっかく窓側の席だったのに、上空からの景色を見ずして到著してしまったことが少し悔やまれた。飛行機を降りると、滑走路の周囲を囲む山々が見える。オランダやドイツでは見ることのない景色。普段とは違う国に来たのだという感覚を味わいながらも、パスポートロールを通ることもなく機内に持ち込んでいたスーツケースを転がし、あっけなく、空港の到著ロビーに出た。到著ロビー付近は、空港には珍しく柵のようなものがない。地面に明かりの組み込まれた赤い線が引かれ、それが待合者が踏み込むことのできるゾーンを示している。一本の線で空間を区切るという感性は日本人の感性にも近いかもしれない。物理的なものではなく、一本の線という人の心理に働きかけるもので空間を区切った運用をしていることから、ジュネーブがいかに落ち着いた都市であるかが分かる。

空港からジュネーブの中央駅までは電車で10分、3スイスフラン。調べると今、スイスフランは1スイスフラン約107円なので、とてもリーズナブルに市内の中心部と空港を行き来できるという感覚だ。駅前のホテルで荷物を預け、レマン湖の周辺を散歩し、半日を過ごした。

今日はどこに行こうかと考える中で、ジュネーブにはセルン(CERN:欧州原子核研究機構)があるということを知った。なぜだか私は最近、宇宙物理学に興味がある。セルンがジュネーブにあるということを、来てから知るくらいなので、「にわか」ではあるが、せっかくならセルンに行ってみたいと思うも、今日は見学の予約が埋まっており、空きがあるのは5日だと分かる。残念ながらそのときにはチューリッヒに移動してしまっているので今回は見学はできないが、今後ぜひともセルンには行ってみたいという気持ちが強くなる。また、ジューネーブは哲学者のジャン=ジャック・ルソーの生まれた場所であるということも知る。政治哲学・音楽理論・言語の起源・教育学・植物学などの研究をし、他者との交流よりも自然と孤独を好んだという記述を見て、ルソーの人生や考えたことにこれもまた、にわかにだが興味が湧いてくる。私の旅の多くは、目的はなく、強いて言えば、ゆったりと過ごし、その街の空気を味わうことが目的だが、こうやってその街に関係がある人や物に自然に出会い、関心を持つことで自分の中の世界、見る世界がゆっくりと広がっていく。そして、いつもの暮らしに戻ったときに、これまでと違った景色が見えてくる。それが私にとっての旅の楽しみかもしれない。

今日はどこで何をしよう。計画はないが、自然に小さな冒険が立ち現れてくるだろう。2019.9.2 Mon 11:05 Geneva