240. 欧州での3度目の夏、内と外の変化

体と空気の境目をなぞるような暑さを感じる。これは、外の暑さというより、外気が高く体の熱が放出されにくくなっていることによって感じる自分自身の暑さなのだろうか。開け放った寝室の窓の向こうから草刈りをするような機械音が聞こえてくる。キッチンに置いたココナッツオイルは今日も透明な液体になっていて、ひさしのない書斎の温度はリビングよりずっと高くなっている。オランダにも夏がやってきた。湿気がないので蒸し蒸しはしていない。ただ、暑さがそこにある夏。セミがいないからミンミンという声は聞こえない。静かな夏。

欧州で過ごす3度目の夏。これまで私はどんな夏を過ごしてきたのだろうかと振り返る。1度目の夏はドイツで迎えた。7月はNiedernhausenというフランクフルトの南南西にある小さな街の中で、何度か住まいを変えて暮らしていた。物理的環境と同じく、自分の心も居場所が定まっていなかった。そして、その後1年暮らすことになるFrankfurtの家に引っ越したのが8月1日。ドイツに渡ってから2ヶ月、ようやくそこで、ドイツの暮らしがスタートしたという感じだった。心の居場所は落ち着かなかったが大枠の暮らしとしては少しは落ち着きはじめ、日本とは違う環境の中で感じる感覚や感性を仕事に活かし、それまでとは違った視点でクライアントさんたちと話ができるようになってきたのもその頃だ。3ヶ月のビザ無しで滞在できる期間が終わるのを前に3ヶ月間分の仮滞在許可を発行してもらうことができて少しほっとしていた。一方で、また3ヶ月以内に滞在許可の延長の申請を出さなければならず、本当に落ち着けるときはいつ来るのだろうかという不安もあった。

昨年の夏、8月3日にドイツからオランダに移動をした。移動する前の1ヶ月間は、次の道を決めた清々しさの中でドイツでの最後の時間を味わっていた。近場だけど行ったことのない街を訪れ、ドイツの自然や歴史を味わった。自分の中で、ドイツで過ごした時間がどういう位置付けだったのかを確認し、完了をさせていくような時間だったと今になって思う。オランダに来てからの1ヶ月間はドイツに来てからの1ヶ月間と同様、ビザの手続きや家探しに追われていた。追われていると言っても、急げば早く進むというものでもない。早く進めたいものはあるものの、物事の進み方は遅く、その現実と気持ちのギャップからまた焦りが生まれる。しかし焦ったところで物事が早く進むわけでもないので、「やるべきことを粛々とやりなが、新しい暮らしを楽しもう」と、無意識にだが腹を決めていたように思う。欧州で2カ国を経験することにより、それぞれの国の特徴というのが分かるようにもなり、それが日本の慣習や日本語の特性・日本的感覚を理解し深めることにもつながっていった。それにつれて、コーチングをはじめとした、言葉や心に関わる仕事で発揮するものの深みも増しているのではと思う。

こうして考えると、今年は欧州で3度目の夏だがこれまでのどの夏とも違う。ビザや住まいなどの手続きは一旦落ち着き、大きな環境の変化はない。だからこそ、自分の中には、外的刺激からではない内なる欲求や関心、自分自身の原動力のようなものを感じることができる。まさに、内側から殻をつつくときなのかもしれない。

これから、何度この地で夏を過ごしていくだろう。その一回一回が唯一のものだし、「同じ」だと感じることがあっても、それはそれでいい。そこにあるものを静かに見つめ、経験していくことを、淡々と粛々と、同時に庭を散歩する猫のようにいつでも興味津々で一歩を踏み出していきたい。2019.7.26 Fri Den Haag

241. 3日間の真夏

なんだかとても久しぶりに書斎の机の前に座った気がする。明け方から激しく降っていた雨はおさまり、中庭の木々の葉には水滴がつき、しんなりと肩をすくめているようだ。1階の庭に咲いている薄ピンクの花がついた植物は背を伸ばしたように見える。この3時間ほどバタバタと雨の強い音がしていたのに、今はすっかり静まってときおりカモメの声が聞こえてくる。

一昨日、昨日は本当に暑かった。ハーグの気温は37度を超え、オランダ南部では39.9度まで上がり過去最高の暑さだったと言う。窓を開けても風が吹き込むということはなく、体と空気の境目が熱を帯び続けていた。昨日はオンラインゼミナールに参加したが、明らかに思考が働いていないことを感じた。集中しようとしても、話が頭の上の方を通りすぎていく。微細な感覚を受け取り、それを増幅させる共振体としての体ではなく、ただ塊としての体がそこにあるような感じだった。クラスの録音を後から聞き直せることは本当にありがたい。しかしこれでは、ただボーッとそこにいるだけになってしまうので、次回からは図書館など、冷房が入って涼しいところからゼミナールに参加しようかなどと考えていたが、今日からはまた気温が下がっている。天気予報では向こう2週間くらい、最高気温が25度を下回る日が続くようだ。35度を超える真夏は、3日間で終わってしまったのだろうか。

一昨晩、書斎の机の上に据え付けられたベッドの部分はとても暑く、なかなか寝付くことができなかった。熱帯夜と呼ばれる熱くて眠れない夜が、日本でも年に数日あったことを思い出す。(この続きに何かを書こうとしていたが忘れてしまった)2019.7.27 Sat